“読むと精神に異常をきたす”? 奇書「ドグラ・マグラ」の都市伝説はなぜ生まれたのか
…………日本が誇る“奇書”「ドグラ・マグラ」の初刊行から90周年。近年は電子書籍でも手軽に触れられる時代になったが……各位、読むときは冷静に正気を保ってほしい。
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ラーメンが恋しい季節である。寒い夜、酔った帰りの一杯のラーメンは心底おいしい。万人に愛されるラーメンだが、ラーメンにも都市伝説がある。手首ラーメン、ネコだしラーメン、インスタントラーメンは食べるな危険問題だ。ラーメンについて考えたい。
あのラーメン店は人肉を使っている……冗談か嫌がらせかはともかく、たまに聞く話ではある。ラーメン店の寸胴で煮てしまえば、人間も豚も同じように処理できるというわけだ。実際にはそう簡単に行くわけもなく、そんなことはあり得ないと思うのだが、実際にそうしたことが起きた。それが「手首ラーメン事件」だ。
事件が起きたのは1978年7月5日のこと。東京の暴力団組員Aが同じ暴力団組員Bに殺された。内輪揉めだ。Aを殺したBは、死体をバラバラにし、配下の組員にばれないように遠くまで捨てに行かせた。
Bの部下たちはバラバラ死体を兵庫県と岡山県の山中に少しづつ埋め、隠ぺいを謀ったが、ここで重大なミスを犯す。手首をひとつ、東京に忘れてきたのだ。
東京に戻った組員たちは、手首の処理に困り、Bが持つラーメン屋台の寸胴で煮てしまおうと考えた。屋台の鍋で煮られた手首は40分ほどで肉が離れ、骨も柔らかくなったという。骨はハンマーで叩き割り、鶏ガラと一緒に捨てたのだそうだ。では、手首の肉の入ったスープは?
組員によると、疑われないように組員は屋台を引き、西日暮里から荒川沿いを夕方5時から深夜2時まで営業したという。警察の取り調べで、屋台を引いていた組員はラーメンは売らなかったというが怪しい。平気で死体をバラバラにした連中が、手首を似たスープを捨てずに屋台で回ったのだ。
この事件以後、ラーメンを食べていたら指輪が出てきたとか、ラーメン屋のある地域では行方不明者が多いなどいろいろなことが言われるようになったようだ。
手首ラーメンではないが、妙にうまいラーメンに当たるとスープに特別なダシを使っているのでは? と思う。今のようにネットでラーメン情報が流れ、煮干しだアサリだ鯛だ鮎だと材料も明らかになる前、ネットが普及する前に言われていたのが、そういうラーメンはネコでとったスープを使っているという都市伝説だ。
九州には豚骨ラーメンならぬネコ骨ラーメンを出す店があり、あたりには野良ネコがいないとか仕込みもゴミも絶対に人に見せないとか、食べ終わった丼の底に動物の毛が残っていたとか。
実際のところ、ネコは食べられるのか? 味はおいしいのか?
中国では広東など一部で今もネコを食べている。2024年12月24日、広東省仏山市三水区美南村で食用ネコの加工所が見つかり、問題になった。ネコを食用にすること自体は、中国では政府により禁じられている。しかし厳密ではないようで、市場でネコが売られ、ネコ肉料理を出す店もある。美南村ではネコを出荷するために、およそ100匹のネコをカゴごと川に沈めて水死させているところをYouTuberに撮影され、炎上した。
ネコの食べ方は、屋台では丸焼き、店では煮込み料理が一般的だそうだ。中国の検索サイト「百度」で調べると、ネコ肉を食べるとガンが治ると言われているらしい。
首都医科大学付属北京地壇病院産婦人科院長ハン・リーロンは、百度の健康情報ページでネコ肉について「塊を柔らかくし、分散させる効果も非常に大き」く、これは「陰嚢炎、悪性潰瘍およびその他の疾患の治療において特に重要」で「食事療法を通じてこれらの病気の症状を軽減」させるという。
ネコを食べるとガン腫瘍が融解し、ガンが治ると中国の医者が言っているのだ。ネコの薬効が信じられていることはわかった。では味は?
広東省に「龍虎鳳凰」というスープがあるという。ヘビとネコと鶏肉のスープで、ヘビは毒が多ければ多いほどよく、ネコは年をとった老ネコがおいしいと言われ、鶏肉には烏骨鶏など栄養価の高い種類を使う。世界最高のスープと言われるが、味の方は好みが分かれるそうだ。鶏肉を抜いたものは「龍虎喧嘩=ドラゴン・タイガー・ファイト」と呼ばれ、広州の名物である。
百度を見る限り、ネコの味はおおむね好評で、ウサギの肉に近いらしい。筋肉質で脂肪はないが柔らかくダシがよく出る。
おかげでラーメンの都市伝説のようなことが本当に起きている。ネコ専門の捕獲業者が野良ネコも飼いネコも根こそぎ捕まえていくのだ。ニュースサイト「ニューエクスプレス」の取材記事には、ネコ販売業者は取材に対し、「どうしてこんなに野良ネコがいると思うんだ? 飼いネコの方が多いんだよ」と答えたと書かれている。取材中、午前3時から4時までのわずか1時間で、ファンという名前のネコ販売業者から100匹以上の「飼いネコ」が売れたそうだ。
残念ながら煮ネコラーメンは見つけられなかったが、「ネコと冬瓜とクコのスープ」のレシピはあったぐらいなので、猫ラーメンは恐らくおいしい。
インスタントラーメンは体に悪いとさんざん言われているが、それでも一向に減る気配がない。それも当たり前で、健康被害が出たことがないからだ。
活動家は化学調味料や添加物を目の敵にする。資本主義を否定する人たちなので、必然的にそうなる。学生運動家が自然農法の農家になったり、有機野菜の通販会社の経営者が元赤軍だったりというのも、理由があるのだ。
いい加減、活動家もあきらめるだろうと思っていたら、最近は超加工品と言い出した。インスタントラーメンやポテトチップス、炭酸飲料など工場で作られる食品のことをひとくくりにして「超加工食品」と呼ぶ。
米国のタフツ大学とハーバード大学によると超加工食品を大量に食べる男性は、食べない男性に比べて大腸がんの発症リスクが29%高いという。
ソルボンヌ・パリ・ノール大学で3万8570人のデータともとに食生活と睡眠障害の関連を調べたところ、超加工食品を大量に食べる人たちに不眠症が多かった。
カナダ・カルガリー大学の研究では、超加工食品を食べるとビタミンなどの微量栄養素が不足し、精神が不安定になり、衝動的になるのだそうだ。怒りっぽくなるのだ。
ケンブリッジ大学が日本人8万9027名のデータを分析したところ、超加工食品を大量に食べる人の自殺率は食べない人の約2倍に達したという。
工場で作られる食べ物は食べるなと言わんばかりだが、毎日3食、スナック菓子やカップヌードルで食事を済ませ、炭酸飲料をがぶ飲みすれば誰だって不健康になるぐらいわかる。繊維もビタミンもほとんどとれないからだ。逆に言えば、そういう極端な食事する人たちを見つけ出せば、普通の人より心不全のリスクは何倍というデータが簡単に取れる。
インスタントラーメンの成分を見ると、人工物などほとんど使われていないことがわかる。食品添加物の増粘多糖類は豆や海藻由来で、スープは豚骨でも鶏でも巨大な釜で煮だしたものをフリーズドライで乾燥させたものだ。白い粉を混ぜたら豚骨スープに! と騒ぐ人がいるが、当たり前である。豚骨スープを乾燥させた粉末なのだ。インスタントラーメンは乾燥しているので、保存料も使われていないし、化学調味料が! と言われても、アミノ酸由来の化学調味料は酵母から作る。酵母がダメならパンも食べられない。
超加工食品という変な名称に惑わされず、普通の食事をしている限り、何も問題はない。3食すべてカップ麺のような生活をすれば健康リスクはあるが、昼食がいつもカップ麺だからと言って病気になるほど人間はやわではないのだ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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