「魔の三角地帯」の超自然的な力で行方不明者相次ぐ…ラストフロンティアの怪奇/アラスカ州ミステリー案内

文=宇佐和通

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    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    「アラスカン・トライアングル」の謎

     アメリカ合衆国49番目の州であるアラスカには、米国内最大の面積でありながら人口密度が最低という際立った特徴がある。大自然が広がる同州は、金鉱や原油、天然ガスなど地下資源が豊富であることから、21世紀に入った今も「ラストフロンティア」というニックネームで呼ばれている。いまだに開拓の余地が残されている土地という意味合いだ。

     一方、このニックネームから「辺境の地」といったイメージで捉えられることも少なくない。そこが魅力となって、オーロラや観測やラフティングといった大自然を満喫しようと国内外から観光客が訪れる。ただし、気をつけなければならないのは、行ったまま帰ってこられなくなる可能性がある点だ。

    「アラスカン・トライアングル」という言葉を聞いたことはないだろうか。ジュノーとアンカレッジ、そしてバローという都市を含むこの地域では、過去50年間に2万件以上もの失踪事件が発生している。この地に代々住んでいる人々は、失踪事件を地域の伝承や神話で語られる悪霊や魔物、そして海の怪物と紐付けることが多いようだ。

    左:ヘイル・ボッグズ下院院内総務 右:ニック・ベギーチ上院議員 画像は「Wikipedia」より引用

     怪異が始まったのは1970年代初頭だった。初期の事件で最も知名度が高いのは、1972年10月に起きた国会議員失踪事件だ。ヘイル・ボッグズ下院院内総務とニック・ベギーチ上院議員いう2人のアメリカ人政治家を乗せ、アンカレッジからジュノーへ向かっていた飛行機が、アラスカン・トライアングル上空で消息を絶った。直ちに大がかりな捜索活動が展開されたが、39日間にわたる作業にもかかわらず、機体は一向に発見されなかった。両議員はもちろん、搭乗機も文字通り消えてしまったのだ。行方不明になったボッグズがウォーレン委員会(ケネディ大統領暗殺事件調査に特化したタスクチーム)に関与していたことも、大きな注目を集める一因となった。

     アラスカン・トライアングルというワードが一気に知られるきっかけになったこの事件に関しては、過酷な自然条件や磁気異常、UFO、その他の超自然的なものまで、原因としてさまざまな仮説が挙げられている。しかし、今になっても何も明らかにされていない。

    一向に終息しない怪異

     不思議な失踪事件はその後も続いた。2013年には、9,700時間以上の飛行時間を持つ経験豊かなパイロット、アラン・フォスターがアラスカン・トライアングル上空を飛行中に消息を絶った。彼が操縦する飛行機が最後にレーダーで確認されたのは、高度1,100フィート(約334メートル)まで降下した時だった。この直後、完全に姿を消してしまったのだ。フォスターの専門知識と飛行中の定期的かつ綿密なコミュニケーションにもかかわらず、飛行機の残骸は回収されなかった。

     2014年には、陸上での失踪事件も報告されている。当時20歳だったジャエル・ティアラ・ハンブレンは、10月11日にアンカレッジの自宅を出たまま行方不明になってしまった。彼女の車と財布は数日後に発見されたものの、ハンブレン自身が姿を現すことは二度となかった。

    アラスカ・トライアングル 画像は「Daily Mail」より引用

     さらに2020年8月17日には、自給自足生活の講演者として知られるフランク・ミナノが、ネナナから行方不明になった。現地の自然環境や地理に関する豊富な知識とサバイバル技術をもっていたミナノの失踪は、地域住民にも衝撃を与えた。「やはりアラスカン・トライアングルには何かある」という意味の衝撃でもあったに違いない。

     アラスカン・トライアングルでは、毎年平均して約2,250人が行方不明になっているという衝撃的な数字もある。しかも、地元のテレビ局や新聞社の調査によると、“ありえない状況”で失踪する人が多い。クルーズ船から、あるいは観光客でごった返す山の頂上などでの失踪例も報告されており、不可解さが浮き彫りになっている。前述の通り1970年代から2万人以上が行方不明になっており、人口10万人当たりの行方不明者数が163.76人という数字は異常そのもの。アラスカでは、未解決の行方不明事件が世界のどこよりも多いのだ。

    ミステリーを求める人々を魅了

     さらに、アラスカの伝説や神話がダークなイメージを増長し、この地域一帯に漂う一種異様な空気の醸成に一役買っている。先住民のトリンギット族は、相次ぐ失踪事件を悪魔や悪霊の仕業であるとし、超自然的な力が働いていると信じている。そこから派生したのが、神話上の生物がUMAという形で実在しているという説だ。

     黒くて毛のない犬の精霊「キールート」は、夜になると旅人を尾行して襲うとされる。緑色の鱗と黒い髪を持つ人魚のような生き物「カルパリク」が狙うのは、主に子どもたちだ。漁師を破滅へと誘う人魚「クシュタカ」や、身長3メートルを超えハンターを餌食とする「ビッグフット」のような生物も怪異と無関係ではないという暗黙のコンセンサスができあがっている。

    *「カルパリク」を題材とした映像作品

     また、この地域は電磁気の影響を受けた一種のエネルギー渦やポータルに囲まれていることが失踪事件の背景にあるとの説も囁かれている。しかも、1990年代になって知られることになったHAARPプロジェクトの巨大アンテナ群が設置されていたのは、同州南部に位置するガコナだ。謎の失踪事件と極秘プロジェクトという組み合わせも親和性が高い。

     このように、ミステリアスな面がアラスカ州の観光資源となっている感は否めない。未知なる存在や恐ろしいものに抗しがたい魅力を感じる人も少なくないのだろう。アンカレッジの「4thストリート・シアター」や「インレット・タワー・ホテル」など、アラスカン・トライアングル内の人気超常現象ポイントを巡るツアーは予約が困難なほど人気を博しているようだ。

     失踪事件に関しては、現在でも数え切れない数の捜索救助隊が組織されている。やはりアラスカ州を訪れる際には、それなりの覚悟が必要だろう。アラスカン・トライアングルの謎がユニークなセールスポイントとなって、アドベンチャー・ツーリズムやミステリーツアーといった観光産業に結実している。こうした状況が続く限り、アラスカン・トライアングルという言葉は今後もさまざまな形で伝えられていくはずだ。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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