人狼ルーガルーがUMAとして実体化する多文化融合の現在地/ルイジアナ州ミステリー案内

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    複合文化の中で育まれた人狼伝説

     世界各国からの移民を積極的に受け入れてきたアメリカ合衆国。文字通りありとあらゆる国の風習や文化、そして伝統が持ち込まれ、変容と進化を遂げた。

     アメリカ南部に位置するルイジアナ州は、ケイジャンとクレオールというキーワードで国内外に知られている。ケイジャンとは、カナダのノバスコシア地方に入植したフランス人の直系の子孫を意味する言葉だ。ルイジアナ州には同じフランスにルーツを持つクレオールと呼ばれる人たちも多く住んでいる。ルイジアナは、アメリカ50州の中では特にフランスとの文化的なつながりが深い地域ということができるのではないだろうか。

     ルイジアナ州はフランスとスペインによって統治されていた時代があり、当時の影響が現在の文化にも残っている。世界的に有名な観光都市ニューオーリンズに限って言えば、フランス植民地時代の建築や料理、言語(フランス語やケイジャンフランス語)という“ならでは”の要素で知られている。ルイジアナ南部に多く住んでいるケイジャンと呼ばれる人々はアカディア人(フランス系カナダ人)の子孫で、独自の音楽や料理(ガンボやジャンバラヤなど)で有名だ。ニューオーリーンズにはヨーロッパ系、アフリカ系、カリブ系、そしてネイティブアメリカンの影響を複合的な形で受けたクレオール文化の中心地という側面もある。

    ニューオーリンズのフレンチクオーター地区には、スペイン統治時代の名残がある。

     こうした文化的特性を持つルイジアナ州で、昔から語り継がれている獣人伝説がある。人狼、あるいは狼人間という言葉でも表現できるだろう。伝説の主人公であるモンスターの名前はルーガルー。「Loup Garou」「Rougarou」などさまざまな綴り方があり、その存在は隣接するミシシッピやアーカンソー、そしてテキサス州の一部でも浸透し、語られ続けている。

     フランスの民間伝承に源を発するこの話は、月の夜に狼に変身する狼男の物語にそっくりだ。普段は人間の姿で過ごしているが、満月を見ると狼に変身し、森の中を駆け巡ったり街中で人を襲ったりする。誰にも気付かれずに素早く移動しながら、野生動物であろうと人間であろうと餌食にする。

     ルーガルーになる、あるいはさせられてしまう理由についてはさまざま語られている。
     変身のプロセスには、呪いが紐づけられることもある。7年間ミサに出席しないなど宗教的義務を果たせなかった報いとしてもたらされたり、犯罪に対する罰として課されたりする。一度呪いをかけられた人はルーガルーとなって何度となく変身を繰り返し、そのたびに苦しめられるという負のループに陥るわけだが、悪循環から抜け出す方法もある。他の人に噛みつき、ルーガルーにしてしまうことで普通の人間に戻れるのだ。

    画像=Pixabay

    ご当地UMAキャラのようなシンボルに

     人狼伝説は、昔からしばしば狂犬病と紐づけられることが多かった。噛むことで呪いが伝染するという考え方は伝染病に対する恐怖の擬人化であり、それがルーガルーというモンスターになったのかもしれない。伝説が定着している南部諸州は湿地帯が多く、蚊を媒体とする伝染病にかかる人たちも多かった。ルイジアナ州の最大の環境的な特徴は、広大な湿地帯やマングローブ林にほかならない。

     ルーガルー伝説が生まれた中世のフランスでは、家畜や子供が行方不明になったときに必ずルーガルーの物語が持ち出されたという。日常生活のさまざまなシチュエーションで人間が見せる理解不可能かつ暴力的な行動に説明を付けるため、わかりやすいモチーフが使われたという解釈が一般的だ。より身近な行いに落とし込むなら、日が落ちてから子供を家の中に閉じ込めて外に出さない理由、そして聖なる存在からの守護を得るための宗教的なシンボルを身に付けるという行いまで、人狼への恐怖はさまざまな形で表現されていた。

     そんなフランスの人狼伝説がアメリカに渡った後も、ルーガルーは罪の顕現、あるいは文明社会と原始的本能との間の内なる葛藤の比喩としても考えられることも多かった。人間から獣への変身は、卑しい欲望に屈したり、神の教えを意図的に拒否したりするときに結果としてもたらされる人間性の喪失の象徴だったのだ。

     ルーガルー伝説にも微妙な地域差が見られる。フランスでは魔女や闇の精霊に関するほかの物語とセットのようにして語られることが多い。カナダのケベック州では、植民地のフォークロアのひとつとして語られていたルーガルーの伝説が地元先住民の精霊崇拝と融合した。そしてルイジアナ州では狼男伝説がクレオールの伝統の影響を受けて独自の進化を遂げた。沼地に生息する生き物として描かれることが多く、ケイジャンの民間伝承においても中核的存在となった。

    ルーガルーをモチーフとしたケイジャン文化の伝統衣装。画像=Wikipedia

      ルイジアナ州ではルーガルーが今でも地元の祭りの人気キャラであり、ルイジアナ州ホウマで毎年開催される「ルーガルー・フェスティバル」では、ケイジャン文化と民間伝承の融合の象徴としてフィーチャーされる。

     ポップカルチャーにも定着しており、狼男をテーマにした映画やテレビ番組でもよく見るモチーフだ。ルイジアナ州の伝承にインスピレーションを得て、アメリカのシリーズ『スーパーナチュラル』のエピソードにもルーガルーが登場した。ハリウッドの大ヒット映画映画シリーズ『トワイライト』にも盛り込まれ、認知度が一気に高まった。

     ルーガルーは、今もルイジアナ州の伝統や物語に影響を与え続けている。キャンプファイヤーを囲みながら、あるいはハロウィーンに語られるにせよ、映画やテレビ番組のコンセプトとなるにせよ、人から獣への変身というモチーフは世代を問わずにアピールするようだ。

    https://rougaroufest.org/

     ちなみに、隣のテキサス州でルーガルーそっくりの“ドッグマン”というUMAの姿が監視カメラに撮影されて大きな話題となったことがある。ドッグマンはアメリカ中西部ミシガン州での目撃が多いことで知られているのだが、ひょっとしたらルーガルーとドッグマンはビッグフットとサスカッチのような関係にあって、呼び名が異なる同じ生物なのかもしれない。目撃例がある限りは、たんなる土着都市伝説や伝承として片付けるわけにはいかないだろう。ルイジアナ州でもルーガルーらしき奇妙な生物の目撃例がここ数年間に増加傾向にあり、専門的に追っているリサーチャーもいるようだ。

     ルーガルー伝説は社会の変化とともに進化し適応し続けてきた。時代々々のポップカルチャーにおける位置付けは、湿地帯を覆う闇を恐れたフランス系移民が感じた恐怖と同じニュアンスを保ち続けるだろう。変容・恐怖・謎の象徴としてのルーツは、これから先の時代も存在感を確実にしていくにちがいない。さらに映像という今日的な要素が加われば、いよいよ定番のフォークロアとしての重みも増していくはずだ。

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