悪魔の終末計画「全人類監視システム」の恐怖/MUTube&特集紹介
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「因幡の白兎」神話の地を訪れると、ツクヨミと重なる白兎の神格が明らかになった。月と兎、そして霊薬を結ぶ神話を考察する。
「因幡の白兎」といえば、古事記に載る、よく知られた神話だ。
白兎がワニ達を騙して隠岐島から海を渡り、因幡(現在の鳥取県東部)の海岸へたどり着く。その嘘が発覚して、白兎はワニ達に毛をむしられ、丸裸にされて伏せっていた。そこに、出雲の大国主命の兄弟達が、因幡の八上姫(やかみひめ)に求婚する為にやって来て、間違った治療法を教え、白兎はより一層苦しむ。が、最後に兄弟達の荷物を背負わされた大国主命が通りかかり、その知恵で白兎は快復する。白兎は八上姫と結ばれるのは大国主命だと予言して、その通りになる。
ーーという話である。
その伝承地は鳥取市の白兎海岸とされ、そこには白兎神社も鎮座する。しかし、同じ因幡国に、これとは全く違った白兎の神話が伝わっている。それは、鳥取市の南、内陸の八頭町(やずちょう)に伝わる、次のような話だ。
太古、この地の中山に天照大神が降臨した。そこで仮宮を建てようと四方を眺めると、白兎が現れ、天照大神の服の裾をくわえ、道案内をした。白兎は尾根続きの霊石山(れいせきざん)へ導き、そこに仮宮を営んだ。白兎はいつの間にかいなくなっていたが、実はその白兎は月読尊の化身だった。その為、後に道祖白兎大明神と称え、近隣四村の氏神として崇めた。やがて天照大神は東へ去り、但馬国(現在の兵庫県北部)との境の山を越える際、草木の枝葉が朝日に照り輝いて美しかった為、「日枝(ひえ)の山」と名付けた。
ーーそれが現在の氷ノ山(ひょうのせん)だという。
この神話にある通り、今も氏神として、八頭町にも白兎神社が鎮座する。それも、1~2キロの範囲で、三社もの白兎神社が連なっているのだ。これらの白兎神社は、明治から大正にかけて政府が進めた神社合祀の際、別の神社に合祀されたのだが、後に復興されて今に至っている。また、この中でも中心的な存在の福本白兎神社の社殿は、近くの青龍寺が引き取って、今も本堂内で厨子として祭祀に用いられている。そこには、波に乗る兎の彫刻も施されている。
合祀された神社の社殿が残っていることも、それが寺院で用いられていることも、非常に珍しいことであり、地元の白兎信仰の篤さが窺われる。
そもそも八頭町の白兎神話を書物の形で伝えて来たのは、青龍寺、慈住寺、最勝寺といった、この地の寺院だ。その中でも特に「城光寺縁起」(城光寺は青龍寺の旧称)は、平安時代から書写され続けて来たことが明記された、古代からの記録である。上に書いた八頭町の白兎神話も、城光寺縁起の要約だ。神仏習合の中で、白兎信仰を伝えて来た寺院なのだ。
青龍寺は奈良時代初期の創建と伝わるが、近隣には飛鳥時代に建てられた土師百井(はじももい)廃寺の遺跡がある。同じく近隣の万代寺(まんたいじ)遺跡は、古代八上郡衙(ぐんが)、つまり郡役所の遺跡だが、郡衙遺跡としては群を抜いて全国一の規模を誇る。また、これらの遺跡や、白兎神社、青龍寺等は、平成の大合併前は郡家町(こおげちょう)に属していたが、「郡家」とはそのものズバリ郡役所を意味する古語である。古代には大いに栄えた土地なのだ。
古事記が書かれた時代に栄えていた土地に、古事記とは全く異なる白兎神話と信仰が伝えられて来たわけだ。その上、八上郡衙の名で明らかなように、ここは古事記の白兎神話に登場する八上姫の本拠地・八上郡の中心地なのである。八上姫を祀る賣沼神社(めぬまじんじゃ)も数キロの近さだ。上述の「土師」は、出雲をルーツとする土師氏の居住地に付けられる地名であり、八頭町にはその後裔氏族・大江氏の名を持つ地名や神社もあって、大国主命来臨の聖蹟もある。出雲との関係も非常に深い土地なのだ。
波に乗る兎の彫刻の意匠も、古事記の神話と無関係とは思われない。鎌倉時代に書かれた「塵袋」に引用される因幡国風土記逸文には、隣の高草郡にいた白兎が洪水で流されて隠岐島に漂着した話が載る。以降の話は古事記と同じだ。これを八頭町の神話と繋ぎ合わせれば、一応、ひと続きの白兎神話になる。八頭町の神話が「因幡の白兎・エピソードゼロ」というわけだ。古事記の時系列とも一致はする。天照大神や月読尊は、大国主命よりかなり早くに登場する。
それにしても不可解なのは、月読尊である。天照大神の弟とされる、至高に近い座にある神が、ワニに襲われたり、大国主命に救われるほど弱いはずはない。
月読尊の神話は非常に乏しく、謎の多い神ではあるが、その唯一の事績というべき話が食物神を殺して、それが様々な食物の起源となったという、一種の武勇を伝える話である。しかも、それにより天照大神の怒りを買い、離れて住むことになったとされている。降臨時に先導をするという八頭町の白兎神話は、これと矛盾するとは言わないまでも、齟齬がある。
神話とは矛盾や齟齬の多いものであるが、この謎にひとつの回答を出すとすれば、それは「不老不死」ではなかろうか。
万葉集には、月読尊が「変若水(おちみず)」という若返りの水を持っていると詠む歌がある。古事記の白兎神話も「重傷からの回復」がテーマである。白兎に治療法を授けた大国主命は、医薬の神としても信仰されている。さらに古事記には、白兎神話の直後、八上姫との結婚で兄弟の嫉妬を買い殺された大国主命が、霊薬で蘇生する話が載る。
そもそも、月に兎が住むという観念は、中国に紀元前からあり、月で兎が杵と臼で薬をつく絵が、後漢の時代には現れる。これが後世の日本では薬が餅に変化するわけであるが、この月の兎を「玉兎(ぎょくと)」といい、太陽に住むカラス「金烏(きんう)」と対をなす存在となっている。
安倍晴明が著したとされる占術書の名は「金烏玉兎集」だ。月の兎は不老不死や道教に深く関わっている。色彩上のことを言えば「金烏」と対になるのは「銀兎」であるが、銀はしろがねとも読むように、白でも表現される為、玉兎=白兎とも言える。なお、八上郡には日月一対の信仰を伝える神社もある。
そしてなんと、八上郡には、「八上薬」という薬が古くから伝わっているのだ。日本最大の郡役所があった八上郡は、当時の先進地帯であり、医薬の知識や技術も蓄えられていたことだろう。
八頭町の白兎信仰は寺院と深い関わりがあるが、古代の仏教寺院は先進外来文化のセンターだった。因幡は地理的に大陸や半島からの人や文物が入って来やすい位置にもあり、兎が海を渡るという神話や彫刻の意匠も、そうした渡来人との交流や、文化の伝来を表しているのかもしれない。風土記の話からすれば、逆に八上郡の人々が、幕末のジョン万次郎よろしく漂流して海外に渡り、文化を摂取して帰って来たということも考えられる。
古代医薬の先進地帯・因幡の信仰と象徴が白兎であり、それが地元八頭町で伝えられる一方、断片的に中央にも伝わって、古事記の神話となったのではないか。いずれにしても、童話のように親しまれて来た因幡の白兎というのは、実は奥が極めて深く、簡単に語る事のできない、謎多き神話である。
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