アカンバロ「怪物」土偶は古代信仰の遺物だ! 知られざるメキシコ呪術文明を追う/遠野そら

文=遠野そら

    メキシコはグアナファト州郊外の街、アカンバロ。オーパーツ「恐竜土偶」の産出地として著名だが、 現地を訪れると、恐竜どころではない奇怪な遺物が大量に待ち受けていた……!

    恐竜土偶の現地で驚くべき異形を目撃!

     2023年7月8日。筆者は「ムー旅メキシコ」行程で、メキシコ・グアナファト州南部に位置するアカンバロへと向かっていた。そこにある「恐竜土偶」を取材するためである。

     恐竜と人類の共存を示す常識を逸した文明の残像が世界のあちらこちらで見つかっているが、数量、クオリティともに最も謎めいた遺物が集まっているのがアカンバロのヴァルデマール・ユルスルート博物館なのだ。

    いわゆる「恐竜土偶」が収蔵されるヴァルデマール・ユルスルート博物館。

     首都メキシコシティから北西に約200キロ。高速道路で3時間半かけて到着したのは、のどかな景色が広がる美しい田舎町。目的の「ヴァルデマール・ユルスルート博物館」は、町から少し離れた倉庫街の一角にあった。発見者のユルスルートが生涯をかけて収集したアカンバロ土偶がここに展示されている。

     われわれが訪れた日は平日にしても来館者は数名で閑散としていた。
     日本では広く知られる恐竜土偶だが、わざわざここまで来るのは、「よほどのモノ好きしかいない」という。
     おかげでこの日は貸切状態。オーパーツ説も囁かれる土偶がこんな郊外でひっそり展示されていることにも驚いたが、「自由に撮影してください」というありがたい申し出を受け、展示室に入ると、すぐに膨大な数の恐竜土偶が目に飛び込んできた。

     プレシオサウルス、ティラノサウルス、ステゴサウルス、プテラノドンを思わせる像が並んでおり、同じ時代を生きているはずのないラクダやクマ、リャマ、猿、馬といった生物と並んでいる。どれも見事に特徴を捉えており、現代を生きるわれわれが見ただけで“それ”とわかる再現力は、想像だけではとうてい不可能なほどである。

    竜脚類のようなものはまさに「恐竜土偶」。
    トリケラトプスの頭部を思わせる土偶もあった。
    こちらは恐竜……か、古代の大型獣か。

     黄土色や赤茶色の素焼き風の粘土細工がほとんどだが、南米ペルーのカブレラ・ストーンのように固く平たい石に彫刻したものや、石を掘り出し作った石彫、また青緑色で表面が滑らかなものもある。大きさも5センチほどの小さいものから1メートルぐらいとさまざまだ。

    しかし、何より驚きだったのは、異形の怪物たちだ。
     翼を大きく広げた犬顔のモンスターや、2本足のツチノコのような生物、尻尾が生えた獣人など、実在した絶滅種なのか、魔除けや守護神のような神獣を模したのかはわからないが、恐竜ではなく、かといって既知の生物でもなく、メキシコの古代文明の表現ともまた異質な、「怪物」としかいいようのない土偶が多く展示されていたのだ。

    異形の獣人や幻獣、神獣を思わせる土偶が多数。既知のどんな生物とも異なる形状の土偶たちが陳列されていた。

    地球外生命体の特徴を持つペア土偶!?

     アカンバロには「人類と恐竜の共存」どころではない古代ミステリーが隠されているのではないだ
    ろうか?

     さらに奥へ進むと、1メートルほどの人型の土偶が目についた。目についた、というよりも目立つ場所に展示されているというほうが正しいかもしれない。土偶はショーケースに2体並べて展示されて
    おり、体躯的な特徴から男性と女性のペア(夫婦)のようである。

    「地球外生命体の特徴を持つ」と説明された土偶。いったい何を模してつくられたものなのか。

     説明文をみると『石棺のようなもの。地球外生命体の特徴を持つ。どの文明にも属しておらず、その起源、制作意図は不明』とある。

     ……地球外生命体!?

     見ると確かに女性の土偶が人間のものとはまったく違っている!
     目は大きく、ひし形。瞳孔は小さく、それを囲む筋はまるで爬虫類の目のようである。両顎には丸いコブのようなものが生えており、耳介はない。大きく突き出した口は、河童のくちばしにそっくりである。体を見ると、胸部と腹部に膨らみがあり、妊婦のようだ。
     寄り添うように並んでいる男性土偶と比べると、あまりも異形である。だがその造形の美しさは他を圧するほどで、繁栄や豊穣など、古代人が願いを込めて作ったのかもしれない。

     アカンバロ土偶は、恐竜以外にも多くの土偶が出土しており、展示されている約2万点の作品のうち約3割が古代人の生活遺物だという。仮面、笛、壺、杖、パイプ、鉢の他、儀式用と思われる工芸品も多い。祈るように手を合わせる女性、シャーマンをかたどった呪術道具、チャクモール(生け贄の心臓を置く台)のようなものとさまざまで、用途はわからないが円盤型UFOに酷似した土偶や、頭蓋骨もあった。

     呪術道具らしきものには暦や時間を現した文様も刻まれていたことから、かなり高度な文化を持っていたのかもしれない。
     そしてなかでも圧倒的に多いのが人型を模した土偶である。ほとんどが妊婦像と同じ、つり目で顎に
    丸いコブが生えた姿─地球外生命体の特徴を有しているのだ。これが1、2個ではなく何十、何百個と並んでいる様は明らかに異様である。

    一見してエイリアンを連想させる、特徴的な顔立ちの土偶たち。これが何百個と並んでいるのだ。

    アカンバロに栄えた古代文明の遺物なのか?

     とりわけ興味深いのは、数千を超える作品群のデザインが何通りかのパターンに明確に分かれていたことである。
     人型の土偶だけでも顔の造形や装飾、文様だけで、この地にはあたかも複数の種族・文化が存在していたようである。これらが神獣や聖霊神を表した信仰の対象だったとしても、ここまで多くの土偶に統一したルールがあるのは、この地で興った文明の遺物と考えるのが自然であろう。

     実際、アカンバロ土偶はすべて「エル・トロ山」周辺で出土しており、2022年5月には山頂付近で、1万年以上前に建造されたと思われる巨石遺跡の存在が明らかになったばかりである。

    異形の土偶の多くはアカンバロのエル・トロ山から出土したものだという。

     だが、なぜこれほどまでにミステリアスな土偶が考古学会から無視されつづけているのか?

     遡れば1945年7月、アカンバロ郊外エル・トロ山の麓にあるチボ村で、ドイツ人の実業家ヴァルデマ
    ール・ユルスルートが奇妙な土偶を発見した。異様なモチーフに魅せられたユルスルートは、使用人一家に命じ周囲を発掘。付近の村人からも1個1ペソ(当時の金額で約30円)で買い取り、約7年という歳月をかけ数万点にものぼる土偶を収集したのだ。
     未知なる文明の遺物を発見したと信じたユルスルートは、専門家による本格的な調査を熱望したが、氏がアマチュアだったことや、掘りきれなかった土偶を埋め戻していたことなど、さまざまな出来事が災いし、メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)をはじめとする正統派考古学界からは、「あり得ない」ーーつまり、「とうてい認められないニセモノ」としてアカンバロ土偶の存在を完全に排除されてしまったのだ。

     古生物学的にいえば、恐竜が絶滅したのは今から約6600万年も昔のこと。人類が土偶や石偶を作るようになったのはせいぜい1万〜2万年前である。両者の時代があまりにもズレていること、そして古代遺跡にみられる土中塩類が付着していなかったことから、“古い地層の土を使用し近年作られた偽造品”というのが、主流考古学側の見解である。

    人間とも動物ともいえない、怪物めいた土偶たちはどこから来たのか?

    手つかずのまま眠る大量の未調査出土品も

     だが、この見解には異を唱える研究者も多い。その後行われた年代測定では土偶がいずれも紀元前にさかのぼる古代の産物であるという結果が出ており、土中塩類についても5000〜6000年前のチボ村周辺は、水はけのよい湖岸の砂地=土中の塩分が極端に少ない地質であったことが地質学者の調査で明らかになっている。

     そして何より、ユルスルート亡き今も、エル・トロ山周辺ではアカンバロ土偶が出土しつづけているのだ。
     最も多いものだと、1978年、アカンバロ土偶を密売していた男ふたりが連邦警察に逮捕され、3000を超える土偶が自宅から押収されるという事件があった。またそれ以外にも、民家の庭や日干しレンガの壁中などから意図せず見つかるケースが多く、直近では2002年、エル・トロ山でレンガ土の採掘中に大量の恐竜土偶が発見され、地元で大きな話題になっている。
     いずれも考古学的な調査を行わないままユルスルート博物館にそっくりそのまま寄贈されているが、博物館裏手の倉庫にはこうした品の他、損傷品や破片など1万7000を超えるピースが今も手つかずのまま眠っているのである。

     古代プレペチャ語で、『マグエイ(竜舌蘭)の場所』を意味するアカンバロは、メソアメリカ地域で最も古い文化のひとつ「チュピクアロ文化」の中心地である。
     地元の人に話を聞くと、エル・トロ山は古くから「呪術の山」として有名で、「満月の夜に空から魔獣が降りてくる」という古いいい伝えもあるそうだ。麓の村々には古代の精神世界を引き継いだ魔女やシャーマンが暮らしており、今も古代の精神文化を引き継いだ儀式が執り行われているという。

    ベロをだした顔、とがった頭部、謎の触手? シャーマンたちの所作や儀式を表しているのか?
    この顔は仮面なのか、なにかを模したものか。古代メキシコ文明のどれにも一致しない。

     繰り返しになるが、昨年にはエル・トロ山頂で巨石遺跡が発見されたばかりである。研究者によると遺跡はチュピクアロ文化よりもさらに古い1万年以上前のもので、東西南北がきっちりと正確に建てられていることから、記念碑や儀式的な神殿だったと推測されている。こうした事実から論理的に考察すると、どれもアカンバロ土偶と深い繋がりを秘めている気がしてならない。

     筆者としては、否定論の根拠となった調査においても、サンプルとしてピックアップした土偶が“本物のニセモノ”であった確率はゼロではないと思う。しかし、それはほんの一部で、ほとんどの土偶や呪術
    具、装飾の文様には統一された文化的ルーツが明確に存在しているのだ。
     そこにはまるではるか遠い昔に、エル・トロ山の麓の湖岸に栄えた古代文明の一片が目に浮かぶようである。

    まるで円盤型UFOのような土偶もあった。側面からみると円盤の周囲が波うっている形状だ。
    爬虫類のような目をした人物が豪華な衣装をまとっている。

     無数につくり遺された恐竜や地球外生命体の造形が、何を表したものなのか現代のわれわれには知るすべがない。

     実は、今回のメキシコ現地取材では、メキシコシティの私設「宇宙人博物館」でもアカンバロ土偶と同じ特徴を持つ遺物を数多く実見することができた。
     にわかには信じがたいかもしれないが、それらをこの目で見てきた筆者にとっては、「怪物土偶」や「異星人遺物」の数々は、この地を地球外生命体が治め、繁殖を繰り返した時代の残香に思えてならないのだ。

    「怪物」発見の端緒となったチボ村は今では湖の底に沈んでしまったが、アカンバロ土偶こそ従来のメキシコ古代史、いや人類史そのものを見直すきっかけになることは間違いない。

    メキシコの富豪による私設博物館「アリステア」の収蔵品。上は「異星人と古代メキシコ人の交流(交配)を描いた円盤型の遺物」で、下はなんらかの外科手術をおこなっている図にもみえる。アカンバロ土偶と直接の関係は確認できないが、これらも超古代の歴史を伝承するものなのか?

    「宇宙人博物館」も含むメキシコ・ミステリーツアー開催!

     春分の日、3月21日にチッチェン・イッツァに出現する「降臨現象」ほか、私設「宇宙人博物館」のアリステア、魔女マリカルメンの占い&開運ショー、そしてUFO召喚にチャレンジする企画など、メキシコの神秘と歴史を体験するツアーが決定! 詳細は以下の告知にて!

    全行程を通じて、三上編集長と一緒にミステリー体験!

    遠野そら

    UFO、怪奇現象、オーパーツなど、海外ミステリー情報に通じるオカルトライター。超常現象研究の第一人者・並木伸一郎氏のスタッフも務める。

    関連記事

    おすすめ記事