<体験談>山岳事故で亡くなった親友が雪崩の危機から救ってくれた
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◆竹内和宏 栃木県足利市
今から9年前、私は雪山で遭難したことがあります。これはそのときの話です。
どれくらい歩いたでしょうか。雪山は荒れくるい、吹雪が止む気配はいっこうにありません。
はぐれてしまった仲間たちは、今ごろどこにいるのでしょう。
とにかくこの吹雪を避けるための避難場所を捜さなければなりません。
そのときでした。前方に洞窟の入り口が見えたのは。残った体力を振りしぼり、私は洞窟に向けて歩きだしました。
懐中電灯で中を照らしてみると、思いのほか広く、洞窟というよりは鍾乳洞といったほうがしっくりくるかもしれません。
入り口から離れていない場所に荷物を下ろし、周囲を眺めてみました。
一般的に洞窟の天井からつらら状に滴りおちている鍾乳石は、たいてい数十センチの円柱あるいは棒状をしていることが多いもの。しかしこの洞窟の鍾乳石は彫像のようにさまざまな形をしています。
そんな彫像のような鍾乳石を見ているうちに、私はある一点に目が釘づけになりました。
“山下?”
その鍾乳石は、まるで人間のような形をしています。
猫背で右膝が外に向かっているようなその姿は、かつてこの山で遭難して亡くなった親友の山下の癖のある体型にそっくりです。見れば見るほど山下に見えて仕方ありません。
そのとき、突然、洞窟全体が揺れだしました。地震です。
思わず手にしていた懐中電灯が落ちてしまい、途端にあたりは真っ暗になりました。
「こっちだ! !」
突然、どこからともなく私を導く声が聞こえました。それは聞きおぼえのある声です。
だれの声だっただろうかと考えていたそのとき、だれかが私の手を引っぱります。その手に引かれ、私は無我夢中で走りだしました。
背後から何かが崩れおちるような大音響が聞こえます。
「振りかえるな! 走れ! !」
私を鼓舞するような声が再び聞こえました。その声に促されるままに私は洞窟の外へ出てからも走りつづけました。
もうこれ以上は走れないというところまできて、ようやく足を止めたころには、あたりはすっかり静まりかえっています。
吹雪は止み、空を見あげると満天の星が輝いていました。
後方を見れば、雪崩が発生した様子がありありと残っています。最も悲惨だったのは、わずか数十メートル先の洞窟があったあたりです。
逃げるのがあと少し遅かったら私は雪崩に巻きこまれ、間違いなく死んでいたでしょう。
気を落ちつけ、歩きはじめて間もなくして、奇跡的に仲間たちと再会、やがて無事に下山することができました。
あの洞窟の中で私を導き、救ってくれたあの声の主はいったいだれだったのでしょう。
じつは、仲間とはぐれてしまい、ひとりぼっちで不安だった私は、洞窟の中であるものをギュッと握りしめていました。それは、誕生日プレゼントとして、生前、山下からもらった登山用の手袋です。今も私の傍らにある大切な手袋。
私を救ってくれたのは、やはり山下だったのでしょうか。

(本投稿は月刊『ムー』2026年03月号より転載したものです)
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