<体験談>藤娘の人形の因縁なのか? 次々と起こる不幸の連鎖
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私の入学祝いに、伯母からガラスケースに入った藤娘の人形が送られてきました。赤地の布帛に薄紫の藤の花柄の着物をまとった美しい人形です。
見るたび心に花が咲くような気分にしてくれるその藤娘の人形を、さっそく私は自分の部屋に飾りました。
浮かれ気分の私とは裏腹に、「入学祝いにはお金を送ってくれたほうがよかったのに」と、母は文句をいいます。さらに、「藤娘の人形を選んだのは器量の悪い娘への当てつけに決まっている」と、私の容姿を憐憫しつづけます。
翌月になると母は父に向かい、「藤娘の人形が気味悪くて仕方ない」と、愚痴をこぼすようになりました。それに対し、父までもが母の意見に同意します。じつは父と伯母はもともと犬猿の仲でした。
両親ともに嫌悪する伯母がくれたものだからこそ、藤娘の人形に不快感を表していたのです。
こんな調子なので藤娘の人形がわが家に届いて以降、私の気持ちは萎えるばかりです。
私は、夜早めに寝床に入るようになりました。そうすれば、両親、とりわけ母の不機嫌なものいいから逃れることができるからです。
ある日の晩のこと、自分の部屋がある2階へと、中ほどまで階段を上がったときのことです。
母が嫌うあの美しい藤娘が音もなく階段を降りてきました。そして私の右肩と藤娘の右肩が軽く接触しました。
驚くことに彼女の背丈は成人女性ほどもあります。
「えっ!? どこへ行くの?」
私は藤娘に話しかけました。
「Hちゃんの家へ行くの」
藤娘は大人の女性の声できっぱりそういうと、やがて姿を消しました。
翌朝、藤娘の人形が入っていたガラスケースを見ると中が空っぽ。あわてて母に尋ねると、
「美人のHちゃんにお似合いだから差しあげたわよ」
と、いうではありませんか!!
後日、Hちゃんの家に行く機会があり、例の藤娘の人形を見せてもらいました。
わが家でガラスケースの中に入っていたときの藤娘の人形は色白の美少女でした。しかし、Hちゃんの家で見た藤娘は薄汚れています。しかも陰気な般若顔をしているばかりか周囲から冷気が漂っています。
恐ろしいものを見てしまったと思い、私は震えながら帰宅しました。
数か月後のことです。お父さんの浮気が原因でHちゃんのご両親が離婚したことを聞かされました。
さらに年月が過ぎ、10年前のことです。私の両親が忌みきらっている伯母のご主人が亡くなりました。
そのとき知ったのですが、亡くなった伯母のご主人は長いこと浮気をしていて、伯母はずっと煮え湯を飲まされていたそうです。
それを耳にした私は、ある推測が頭に浮かびました。
亡くなったご主人の浮気相手に対し、強烈な嫉妬心を持っていた伯母。その負の念が、やがて藤娘に宿ってしまったのではないか。また、藤娘の人形がHちゃんの家にもらわれたことにより、幸せだったHちゃんの家庭までもが崩壊したのではないか。
「藤娘の人形が気味悪い」
かつて母はいっていました。つまりもともと藤娘の人形には因縁があったのでしょう。そんな人形を母が差しあげたばかりにHちゃんの家庭は不幸に陥ってしまった……。Hちゃん、本当にごめんなさい。
◆版木由好/山口県光市(66歳)
(本投稿は月刊『ムー』2025年12月号より転載したものです)
〈編集部より〉
複雑な人間関係の闇が人形に何か力を与えてしまったのか。なんだか呪力が暴走しているようで、不安です。
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