<体験談>突然死だったゆえに父は死を自覚していないのだろうか?

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星河真之/埼玉県

 今から十数年前の、ある日の早朝の出来事です。
「大変! お父さんが冷たくなっている! 早く来て―― !!」
 それまで2階の自分の部屋で寝ていた私は、大声で叫ぶ母の声で目を覚ましました。
 飛びおきて、あわてて1階に駆けおりてみると、すでに緊急救命隊と思われる人たちが来ていて、父に蘇生行為を施しています。手には携帯電話を持ち、病院の医師と連絡を取りあっているようです。
 父は瞼を閉じて布団に横たわっています。
 その後、けたたましくサイレンを鳴らした救急車が自宅前に到着。
 父に付きそい、救急車には母が同乗しました。
 自宅にひとり残った私は、
“昨日まであんなに元気だった父が、なぜ突然、こんなことになってしまったの!?” といった具合に、答えの出ない疑問ばかりがぐるぐると頭の中を駆けめぐります。
 ただ呆然としてしまい、何も手につきません。当然ながら朝食を食べる気にもなれません。
 果たしてどれくらい時間がたったころでしょうか。病院にいる母から電話がかかってきました。
「お父さんが亡くなった……」
 享年80代前半。
 時節は極寒の12月。高齢者が最も多く亡くなる時期です。
 その手の話はあらかじめ耳にしたことがありました。しかし、そうはいってもあまりにも突然の出来事だったため、私は言葉にいいあらわせないほどのショックを受けました。もちろん母も同じです。
 晩年は外に出ることがほとんどなく、居間でテレビを見てばかりいた父でした。それにもかかわらず香典をご近所の方が持ってきてくださり、しかもそれが想像以上の数だったため驚きを隠せませんでした。
 しかし、それ以上にもっと驚いたことがあります。
 わが家の居間には壊れて動かなくなったアナログの壁かけ時計があります。いつかそのうち処分しようと思いつつ、ずっとそのまま放置していた時計です。
 父が他界したその日、どういうわけかその壁かけ時計が急に動きだしたのです! ! カタッ、カタッといった具合に。
 見ればそれまでまったく動いていなかったにもかかわらず、正確な時刻を刻んでいます。たった1秒の誤差もなく。
 もちろん母も私も時刻合わせなどしていません。本当に不思議なことがあるものです。
「俺はまだ生きているぞ! !」
 まるで亡くなった父がその時計に乗りうつり、母と私に向かって訴えているかのようです。
 それまで父は病で床に伏せっていたわけではありません。年相応にあちこちガタはきていたでしょうけれど、特に持病もありませんでした。突発的に死が訪れた。それ以外の何ものでもありません。
 そんな状況ですので、当の父自身、亡くなってもうこの世に存在しないことに気づいていないのかもしれません。
 そんなふうに私には思えてならないのですが、実際のところはどうなのでしょう。また、父はきちんと成仏できているのでしょうか。

(本投稿は月刊『ムー』2025年7月号より転載したものです)

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