<体験談>立ち寄ったバーが「2カ月前に全焼していた」のはなぜ?
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◆重三郎
その日、私は会社の同僚たちと居酒屋で酒を飲んでいました。深夜12時ごろお開きということで、店の前で解散しました。
その店はアパートまで徒歩30分ほどの距離だったので、私は歩いて帰ることにしました。その夜は濃霧で、私は前方に注意しながら歩いていました。
どれくらい歩いたでしょうか。前方にぼんやり明かりが見えました。近づいてみると一軒の小洒落たバーでした。
その日は休日の前日だったので、私はそのバーに寄ってみることにしました。
バーの重いドアを開けて中を見回すと、カウンターの向こう側に、長身のバーテンダーらしき男が立っていました。私はカウンターのスツールに座りバーボンの水割りを注文しました。
その店の中は冬だというのに、寒いくらい冷え切っていました。
私はだいぶ酔っていましたが、そのバーテンダーとたわいのない話をし、水割り1杯で切り上げて店を出ました。
外はあいかわらず深い霧で、私は千鳥足でアパートに帰りつきました。部屋で私はライターがないのに気づきました。あのバーに置き忘れてきたようでした。そのライターはお気に入りだったので、明日取りにいこうと思い、ベッドに入りました。
翌日、夜になるのを待って、あのバーに行ってみることにしました。しかし、店のあった場所のあたりにはどこを見ても店が見つからないのです。一戸建てのバーだったので、見落とすはずがないのに、どこをどう捜しても見つかりません。
私は店があったはずの場所近くの駄菓子屋で聞いてみました。
「あのう、この辺りに小さなバーはありませんか?」
すると店番をしていた初老の男の人は、怪訝そうな顔で、
「確かに、そこの空き地に小さなバーはあったけど、火災で全焼してしまったよ。2か月ほど前にね。店のマスターも焼死体で発見されてね」
といいながら空き地を指差しました。私は茫然自失でその場に長らく佇んでいたのを覚えています。
(本投稿は月刊『ムー』2025年5月号より転載したものです)
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