◆下川ロウザ

　20年以上前、向かいが広大な竹林で、裏には畑が続くという立地に建つマンションに入居したときのことです。
　日中、食器を洗っていたとき、玄関とLDKを仕きっているドアをすりぬけて、見しらぬ中年男性が入ってきました。玄関のドアもリビングのドアも開けずに入ってきているので、生きている人間であるはずがありません。
　私は視線を伏せて、気づかぬふりをしました。一方、男性は、ハッとしたのち、そーっと通りすぎていきました。
　夜、主人に、リビングの一角にある和室で昼間の出来事を話そうとしました。そこは、男性が消えていった場所です。
　このとき、和室の照明は消えていて、薄暗い状況でした。
突然、部屋の中心あたりの空中に、私を見つめる首から上だけの男が現われ、私が悲鳴を上げた直後、消えました。
　昼間の一件と、今しがたの出来事を主人に話しはじめたところで、主人が空中を指さし、こういいました。
「首が現われたのは、あそこでしょ？」
　どうやら私だけが見た幻覚ではなかったようです。

＜編集部より＞
　気づかれなくてよかったですね……。

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