<体験談>病を克服できたのは夢に導かれた動物園のおかげ?

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◆春西尚子 福井県

 今から13年前のことです。毎年、私は定期検診を受けていて、その年の検診でも異常なしといわれました。
 それから半年もたっていないころ、突然、倦怠感に襲われ、尿がコーラ色になっていることに気づきました。
 不安になった私は、総合病院を受診することにしたのです。
 精密検査の結果、膵臓がんの疑いがあるといわれ、2か月後に手術を受けることになりました。
 膵臓がんは発見が難しく、手術をしてみなければ進行具合がわからないという厄介な病気です。
 それまでの私は欠かさず中学校の同窓会に参加していましたが、今回は欠席せざるを得ません。じつは手術日近くに同窓会の予定が入っていたのです。
 同窓会を欠席することを耳にしたのか、手術直前、友人ふたりが見舞いにきてくれました。そして、
「新潟の有名な不動明王様に祈願してきたから、大丈夫だよ」
 と、励ましてくれました。
 8時間に及ぶ手術の結果、膵臓の中にある胆管が太い血管に巻きついた状態の胆管がんと診断されました。ステージはIV(4期)。
 術後は硬膜外麻酔のおかげで傷口の痛みはほとんどありませんでした。
 眠ることもでき、合間に夢を見ました。
 夢の中で、見舞いにきてくれた友人が、猿ばかりを展示するとある動物園まで来るようにといってきたため、出かけていきました。
 ところが、動物園に到着しても友人の姿はなく、大きなドーム形の檻の前に10歳くらいで目の大きなインド人風の顔つきをした男の子が立っているだけです。その彼が、
「檻の向こうに友だちがいる」
 と、教えてくれました。
 ドームの中に入ると、猿がいました。進路に沿って進むにつれ、猿のサイズが大きくなっていきます。気がつけば化け物のように巨大なヒヒに前後左右囲まれ、進むことも戻ることもできません。
 巨大なヒヒにかみころされると思ったそのとき、先ほどの少年が現れ、「僕についてくれば大丈夫だよ」
 と、いいました
 次の瞬間、彼は牛ほどの大きさの鳥に変身しました。全身が薄茶色で覆われ、両足は太くがっしりしています。羽毛は固く、ゴワゴワしていますが、頬を寄せると温かさが伝わってきます。
 私は、巨大な鳥に寄りかかるようにしてゆっくり前進しました。
 ヒヒの化け物は巨大な鳥を恐れているようです。遠巻きに見ているだけで襲ってくることはありません。巨大な鳥のお陰で無事に猿の檻を抜けだすことができました。
 直後、巨大な鳥は少年の姿に戻り、
「もう大丈夫だよ」
 といって、去っていきました。
 胆管がんは再発率が高く、膵臓がんに次いで生存率が低いといわれるがんです。それにもかかわらず、定期検診では、毎回、医師が驚くほど検査結果が良好。現在、手術してから13 年が経過しますが、至って元気そのものです。
 忙しく過ごす毎日の中で、ときどきあの夢を思いだします。化け物のように巨大だったヒヒは、私の体を蝕んでいたがんで、巨大な鳥に扮した少年ががんから私を救ってくれたのではないだろうか……。
 そんな風に思えて、常に感謝の気持ちを忘れないようにしています。

(本投稿は月刊『ムー』2025年3月号より転載したものです)

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