<体験談>京都で「無色透明の人面魚」が這っていた

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杉浦千賀代 愛知県


 先日、京都で妖怪を見ました。これは、そのときの話です。
 降ったり止んだりと、シトシトと雨が降る中、京都のある寺へ向かって夫婦で歩いていたときのことです。
 見た目が人面魚のような物体が、4本足で、左側から地べたを這うようにして私たちの前を横切りました。無色透明の物体です。
 この世のものではないと、すぐにわかりました。何度も京都に来ていますが、妖怪を見たのはこれが初めてです。
 歩きなれた道でしたが、知らないうちにいつもと違う方向へ道を曲がってしまったのでしょうか? まるで見覚えがないばかりか、まるで江戸時代に戻ってしまったかのような景色です。
 歩いている人は皆、着物姿で髪を結っていて、砂地の道をわらじで歩いています。見ればタライで洗濯をする人の姿もありました。
「化かされているのかも……」
 そう話す夫にうなずきつつ来た道を引きかえすと、景色が戻りました。
 ホッとして歩いていると、
「こっち!」
 と、見知らぬ男性が声をかけてきました。いわれるがままついていくと、薄暗い道が続いています。
 左手に祠ほこらがありました。見れば祠の一か所に、「首なし地蔵」と書いてあります。祠の背後には壁があり、その上部には大きな黒い布が貼りつけられてありました。
「これね、ここをめくると大きな穴が空いてて、そこから最近、出たものですからね、塞いだんですよ」
「首なし地蔵」がその穴からが飛びでてきたため、黒い布でその穴を覆ったといっているのでしょう。
「目指す寺はこの先にある」
 とも、教えてくれました。
 目が慣れたのか、薄暗い道にはいろいろな姿形をしている妖怪がいることに気づきました。ろくろ首や、先ほど目にした地面や壁を這いつづける妖怪もいます。体を傾かせながら歩いている妖怪もいました。
 そのまま歩いていると、右に曲がる道があります。そのころには、私たちをここに誘った男性の姿は、もうありません。
「こっちに行ってみようか」
 そう夫がいい、曲がってみたところ、もともと歩いていた、寺へ向かう道に戻ることができました。
 夫婦ふたりであたりをキョロキョロみまわしていたところ、
「どうされました? 道に迷いましたか?」
 と、声をかけられました。事情を話すと、
「化かされましたね。よくあるんですわ、このあたりでは」
 と、いわれました。
「何十回も来ていて、よく知ってる道なんですけど……」
 というと、
「慣れてるからそうなるんですわ。
このへんの人も、よういってはりますよ、そういうことを」
 といわれ、さらに、
「妖怪に化かされたときは、拍手を2回打って祓うといいですよ」
 と、教えられ、その場でふたりで拍手を2回打ちました。
「寺はここをまっすぐ行くと左手に見えてきますわ。ちなみに私は妖怪じゃないんで。人間ですから大丈夫」
 と、大笑いするその人にお礼をいい、やがて寺にたどりつきました。
 私たちは妖怪に遊ばれてしまったようです。でも、こちらも妖怪を見ることができて楽しかったです。

(本投稿は月刊『ムー』2025年3月号より転載したものです)

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