<体験談>夏合宿で見た「十数人いたはずの大部屋」
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◆大石貞治 静岡市
知人のM子さんの体験談です。
大学生のとき、M子さんは運動部のマネージャをしていました。所属する運動部の部員は男子のみで、女子はマネージャーであるM子さんただひとりだったといいます。
これは、夏の合宿で彼女と部員が宿泊したホテルでの出来事です。
そのホテルは築年数がかなり経過していて、全体的に古めかしい風情だったといいます。
宿泊する部屋は、男子部員が1階にある大部屋で、十数人が一緒に寝泊まりします。運動部の唯一の女性であるM子さんには、ひとりで使うための別部屋が、当然ながら用意されました。
日中の練習が終わり、夕食後、各自、部屋に戻ったのですが、そのときM子さんは異変を感じます。
何がどうおかしいのか、具体的なことはわかりません。ただ、部屋の雰囲気がなんとなくおかしいなと感じたそうです。
ひとり部屋のため、そのことについて話す相手はいません。
違和感を覚えながらテレビを見ていると、突然、扉が閉まる大きな音がしました。
「バタン!!」
びっくりしたことはいうまでもありません。あわてて音のした方向を見ましたが、特に変わったこともないため、気にしないようにと自分にいいきかせました。
しばらくすると、再び何かがぶつかるような音がしました。
「ガタン!!」
部屋の異様な雰囲気と、二度にわたる怪奇音に心細くなったM子さんは、仕方なく男子のいる大部屋で寝ることにしました。
おおぜいの男子の中に女子ひとり。当然ながら一抹の不安はあります。しかし、部屋でひとりで怖い思いをしているよりは、かってしったる部員たちといっしょにいるほうがまだマシだと考えました。
“そっと入れば部員の男子たちに気づかれないだろう”
そう思いながら大部屋を覗いたところ、寝ている人がいるかと思えば、本を読んでいる人もいます。ゲームに夢中になっている人もいて、M子さんに視線を向ける部員はだれひとりいません。
安心したM子さんは、だれも使用していない布団を見つけ、頭から被り、寝てしまいました。
朝を迎え、目を覚ましたM子さんは、あたりを見まわして驚いたそうです。なんと、周囲にだれひとりいないのです!!
間違いなく、前日の夜、部員である男子のいる大部屋で就寝したはずです。
不思議に思ったM子さんは、少し時間が経過したころ、部員を見つけ、一連の話をしてみました。
結果、どうやら男子が泊まっていた部屋を、M子さんが間違えてしまったようです。
そうなると、さらに疑問が湧いてきます。では、M子さんが見た前夜の大部屋の光景は、いったいなんだったのでしょう。
よくよく考えれば、昨晩の大部屋の男子の様子がおかしかったそうです。それぞれ自分のしていることに夢中になっていて、会話をしている人は皆無、部屋全体があまりにも静かすぎた、と。
そっと部屋に入ったとはいえ、だれひとりM子さんの存在に気づかなかったのもおかしな話です。
M子さんはいったいどこに紛れてしまったのでしょう。
(本投稿は月刊『ムー』2025年2月号より転載したものです)
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