実体ある人工知能「フィジカルAI」がもたらす革命的変化とは? 人間の思考や感性もAIが再現する近未来へ
これまで人間との接点がディスプレイとキーボードだけだった生成AIに新たな動きが起きている。人間との共存に最適化させ、現実世界に降りてきた「フィジカルAI」はどのように私たちの生活を変えるのか!?
記事を読む

2023年、世界のIT大富豪が2か月限定でモンテネグロに作られた実験都市「ズザル」に集結した。いったいその目的とは――?
富豪が作った富豪のための実験都市、それが「Zuzalu(ズザル)」だ。モンテネグロに作られたポップアップシティ(ポップアップショップはあるが、シティは世界初だろう)で、2023年3月25日~5月25日の限定運用だった。

MITレビューによれば、実験はアドリア海に面した700万平方キロの土地で、マンションとホテル(約10億ユーロ相当)が立ち並ぶ高級リゾートを貸し切って行われた。
ズザルを創設したのは仮想通貨「イーサリアム」を生み出したロシア系カナダ人、ヴィタリック・ブテリンだ。その目的は、抗老化を社会実装するための技術開発やコミュニティ、その基盤となる暗号通貨や法制度を自由に議論する場を作るため。つまり、不老不死を目指す富豪たちによるオフ会と考えるとしっくりくる。

ズザルが運用された2か月間、参加した富豪たちは長寿メニューを食べ、血液検査等の健康チェック、ヨガ教室、音楽フェス、生物学の講演と暗号通貨の講演、ミーティングなどを行った。超リッチ&現代版のヒッピーコミューン、あるいはデジタルリッチな「バーニングマン」(砂漠で行われるアートイベント。スマホを捨てようというバーニングマンのコンセプトとは真逆だが)といった具合だ。

ちなみにブライアン・ジョンソンはオンライン決済サービスで巨万の富を得ると、年間3億円とも言われる経費を長寿のためにつぎ込み始めた起業家でありバイオハッカーだ。今や宗教といっても過言ではない不老長寿への信奉をリードする“教祖”的インフルエンサーとして、「Don’t Die」のスローガンを掲げる。彼は、AIがシンギュラリティによって制御不能な存在となり、人類を敵とみなす事態を懸念しており、(永遠ではないにせよ)非常に長く生きることでAIと共存する道を探るのだそうだ。
ズザルのたった2か月でなにか新しい発見が生まれることはなかったが、富豪たちが妄想している次の社会を実感するための試みとしては大成功だった。
死はたしかに怖いものかもしれない。老いていくのもなかなか辛い(筆者もすでに歯が何本も抜け落ち、ついに義歯になった)が、それは生まれた時から決められた生物の宿命のはず。だが、彼らはそれを認めない。それどころか、貨幣や国家さえ認めない。不老長寿の研究で死を乗り越え、仮想通貨で連邦銀行制も国家通貨も否定――そして次なるターゲットは、国家そのものだ。
ブテリンら超富豪のハッカーたちは、テクノロジー投資家バラジ・スリニヴァサンが提唱する「ネットワーク国家」を実現するつもりでいる。ネット内のグループが巨大化し、それが都市を越え、国家レベルのサイズになった場合、リアルに国家を作るべきだという考え方だ。フリーメーソンのような超国家の秘密結社が元は職能集団から始まったように、ネットワーク国家はITビジネスが基底をなす。実は、ズザルはその小型パイロット版でもあったのだ。

ズサルが作られたリゾートは、2か月が過ぎるとすぐに元のリゾート地に戻った。その後のズザルはネット上のコミュニティとして活動が継続している。ブロックチェーン上で運営される分散型自律組織(DAO)がそのメインステージだ。DAOはコミュニティであり、エンジニアたちが自主的に暗号通貨を進化させ、次の決済システムを開発している。
彼らは究極の自由を求めていると言えるのかもしれない。国家を黙らせるほどのテクノロジーと金とアイデアをもつ新人類だ。アダムとイブの神話に基づくなら、彼らは知恵の実を食べた人類代表として、食べそこなった生命の実に口を付けようとしているのだ。
IT富豪たちのアグレッシブな狂気が人類をどこに運んでいくのか、誰にもわからない。恐らくはデジタルエリートによるネットワーク社会は弱者や失敗者を排除した、独善的な内向きのシステムとなるだろう。しかも「老化は悪」がコモンセンスだ。

ただ、全てが一概に悪いとも言い切れない。現在の肥大化した官僚制と民主主義では難しい迅速な行政が可能になり、経済と政治が一体化、超国家間での共通のフレームが生まれる。ネットワーク国家はその出自から連邦制となる可能性が高く、経済効率性という面から戦争や独裁者を消滅させるだろう。
ネットワーク国家から、笑顔と善意の超国家独裁制が生まれるのか、それとも真の自由主義が生まれるのか、はたまた単なる巨大なオタクコミュニティになるのかは誰にもわからない。
なお、「ズザル」の名前に意味はなく、ChatGPTに適当に作らせた言葉なのだそうだ。暗示的である。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
関連記事
実体ある人工知能「フィジカルAI」がもたらす革命的変化とは? 人間の思考や感性もAIが再現する近未来へ
これまで人間との接点がディスプレイとキーボードだけだった生成AIに新たな動きが起きている。人間との共存に最適化させ、現実世界に降りてきた「フィジカルAI」はどのように私たちの生活を変えるのか!?
記事を読む
未来人の身体に起こる5つの変化とは!? 科学者が予想する「今後失われていく部位」
科学者が予測する未来人の姿! 現代人もすでに失いつつある5つの機能とは――!?
記事を読む
ついに「宇宙意識」が科学の俎上に!? あらゆる超常現象を説明できる“意識の基本場”理論の提唱
われわれの意識の本質についての探究が進んでいる。ある物理学者によると、意識とは個々人に独立してあるものではなく、宇宙の構成要素の一つであり、普遍的意識という全体に繋がっているという――!
記事を読む
立入禁止の古墳で戦後初調査、ラムセス2世降臨、ほか今週のムー的ミステリーニュース!
3月7〜13日にかけて世界を騒がせたオカルト・考古学・民俗学などの最新不思議ニュースから、超常現象情報研究所と編集部が厳選!
記事を読む
おすすめ記事