アイルランド版“因習村”! ケルト神話と融合したホラー映画「FRÉWAKA/フレワカ」が描く北の異界

文・インタビュー=杉浦みな子

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    アイルランドの民間伝承とケルト神話、そして国家が抱えてきた歴史の影を融合させ、異界が日常に滲み出す瞬間を描く映画「FRÉWAKA/フレワカ」。アイルランド版“因習村”とも言える、美しい悪夢のフォークホラーが誕生した。

    民間伝承やケルト神話と融合して描かれる“アイルランドの暗部”

     アイルランド発のフォークホラー映画「FRÉWAKA/フレワカ」が、2026年2月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開スタートした。

     監督・脚本を務めたのは、アイルランドにルーツを持つ女性作家、アシュリン・クラーク。米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」で実に96%(2025年11月20日時点)の高評価を獲得した本作の特徴は、美しい北の大地に根を張った“異界の恐怖”を描いていることだ。 

    © Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.

     というのも本作、アイルランドの歴史を背景に、民間伝承やケルト神話に宿る“土着の祈り”や“呪い”を、現代的ホラーの感覚で表現した映画になっていて、異様にムー的考察がはかどるのである。 

    「ミッドサマー」や「LAMB/ラム」を彷彿とさせる現代フォークホラーっぽい“民話的な恐怖体験”と、アイルランドの歴史・伝承が融合するさまは見事。同じケルト由来の因習村系という点では、名作カルト映画「ウィッカーマン」との対比も面白いだろう。しかしこれもお約束だが、この手の映画はそういった背景情報を知らないと、面白さが半減してしまって大変もったいない。

     そこで今回、本作のオカルト的モチーフについて、クラーク監督本人に直接話を訊いてみた。そのコメントを交えながら、ネタバレしない程度に作品の背景情報を紐解いていきたい。 

    アシュリン・クラーク監督。

     なお先に明示しておくと、本作の日本公開にあたり、筆者は宣伝PR文の制作に関わっている立場である。それを踏まえた上で、本記事ではムー的見どころをピックアップして紹介していく。 

    婚礼の夜、花嫁が忽然と姿を消した

     まずは映画のあらすじについて簡単に触れよう。物語は、ひとつの失踪事件から始まる。50年前の婚礼の夜、人里離れたアイルランドの村で花嫁が忽然と姿を消したのだ。 
     その出来事から半世紀後、主人公の訪問看護師・シューは、老婆ペグの介護のためにその地を訪れる。だが村には、言葉にできない“何か”が潜んでいた。老婆は「ヤツらに気をつけなさい」と忠告する。その家の1階には蹄鉄がかけられた赤い扉があり、どこからともなく不思議な歌声が響いてくる。そして、藁の被り物をした人々が現れる謎めいた祝祭――。 
     やがてシューは、この土地に埋もれていた古い記憶、そして女性たちに受け継がれてきた“犠牲の歴史”に触れていくことになる。 

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     タイトルの「FRÉWAKA」は、アイルランド語の<fréamhacha(フレーヴァハ)=「根」>に由来する。実は本作、史上初の「全編がアイルランド語で紡がれた長編ホラー映画」でもある。アイルランド語は、飢饉による人口激減やイギリス支配下における英語の普及といった歴史的背景により、衰退していった言語だ。

     幼少期からアイルランド語教育を受けたクラーク監督にとって、この言語は亡き父との記憶と深く結びつく存在。その個人的ルーツを、フォークホラーの文脈に乗せ、アイルランドという国が抱える歴史の暗部と見事に融合させたのが本作だ。従来の英語圏ホラーとは一線を画す、土着の言語と文化に根差した意欲作として結実した。 

     アイルランド語について、クラーク監督は次のように語る。 

    「言葉には、古代から続く何かが宿っている。私はそう思っています。例えばアイルランド語には、雨を表す言葉がとても多いんですが、それは農地を耕して生きる民族として雨の情報が重要な存在だったからです。つまり、言語そのものが、その土地で生きてきた民族の在り方を現代に伝えてくれているということ。私たちは忘れているつもりでも、潜在意識の中では、言葉に宿る何かを継承しているはずです」

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     また、北アイルランド問題、独立戦争、飢饉、そしてマグダレン洗濯所や職業訓練校、組織的児童虐待――国家が背負ってきたこれらの痛ましい歴史を、クラークは“今も続くトラウマの連鎖”として本作の中で表現した。 

     さらに、保守的なカトリック教会の社会観を反映したアイルランド共和国憲法の「女性の居場所は家庭である」と定義する条文に象徴された、“女性の位置付け”。家庭という閉ざされた空間が内包する、“愛情と表裏一体”の側面にも切り込んでいる。 

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     作中では、母から娘へ、老婆から訪問介護士へと引き渡される連なりが描かれているわけだが、それだけにとどまらず、アイルランド固有の土着信仰やケルト神話が重ねられているのが、本作の面白いところ。これが、ムー的想像力を強く刺激するのだ。続いては、その辺を掘り下げていこう。 

    アイルランド版“因習村”といえるフォークホラー

    神話について、クラーク監督は言う。

    「アイルランド神話は、体系的な聖典がなく、語り継がれるうちに姿を変えてきた物語です」

    古代ケルトから続く土着儀式と共に受け継がれた口承の記憶は、キリスト教伝来以降のアイルランドの歴史と複雑に絡み合い、いつしか恐怖を内包していた。 

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     例えば、作中で語られる“見えない何か”<イース・シー>(Na Sídhe)は、アイルランド神話に息づく超自然的存在だ。一説によれば、ケルトの神々に由来する妖精のようなものだという。 

    「イース・シーは妖精といっても、悪意を持っているんです。ディズニー映画に出てくるそれとは違う。彼らは私たち人間を憎み、その不幸や狂気の沙汰に喜びを感じている。なぜかというと、人間は彼らにとって“植民者”だからです。もともと彼らが息づいていた土地に、人間が侵入してきたという感覚なんです」

     それは、アイルランドが歩んできた歴史とも重なる視点である。一方、かつてアイルランド農村の結婚式では、藁で作った仮面を被った男たち<ストローボーイ(Strawboys)>が、婚礼の場に押しかけて踊るという習俗があった。 

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     本作冒頭から登場する奇妙な“藁仮面の男たち”は、この<ストローボーイ>の風習を映したものだが、それが<イース・シー>の伝承と重なる時、祝福と悪意が交錯するその姿に、婚礼という祝祭に潜む共同体の闇が見えてくる。 

    「ストローボーイは実在の風習です。いわば“招かれざる客”なのですが、特に70年代頃までは彼らが結婚式に現れて踊るのが普通でした。ストローボーイが現れることも込みで結婚式を行う形だったんですね」 

     この辺は、日本でいう“因習村”の世界観と通じるところがあり、非常に興味深い。しかし、その儀式の意味は、アイルランド現地でもすでに失われているという。 

    「実は、ストローボーイがもともと何を発祥として何のために行なっていた儀式だったのか、今となっては私たちにもわからないんです。ただ、藁仮面を被って結婚式に現れるという形だけが残っているんですよ」 

     そこには、迷信に対する何らかの畏れが継承されてきた様子が見て取れる。 

    迷信を信じていないと言いながら、無視できない

     そのほかにも、本作ではいくつかの信仰的・文化的モチーフが象徴的に描かれている。例えば、動物の“ヤギ”だ。

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     それは、ケルト神話の角を持つ狩猟神かつ冥府神<ケルヌンノス(Cernunnos)>や、雄ヤギを街の王として祭り上げる伝統行事<パック・フェア(Puck Fair)>を想起させるが、その意味を尋ねると、クラーク監督の話はさらに時間軸を遡った。 

    「アイルランドではこれまでの歴史の中で、古代の狼や鹿などが生きていた森林の多くが失われました。でもヤギは今も野生で生きている動物で、“エンシェント・アイリッシュ・ゴッド”と呼ばれる特別な存在です。そこで映画では、古代の世界と現代の我々をつなぐ存在として、ヤギを登場させました」 

     そう、本作におけるヤギは、アイルランド語が継承してきた“古代から続く土地の記憶”とシンクロする存在なのである。 

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     また老婆ペグの自宅にある赤い扉に、“蹄鉄(ホースシュー)”が掲げられているのも印象的である。ケルト神話で鉄は悪霊を遠ざける物質であり、アイルランドでは結婚祝いに蹄鉄を贈る風習もあるというが、クラーク監督はそこに守りと封じの二面性があることを見逃さない。そして、それと合わせて繰り返し映るのが、赤い十字架だ。 

    「十字架は守護の象徴ですが、私にはどこか邪悪さも感じられるんです。“犠牲”と“罰”が同時にある。そしてとても父性的なものですよね」 

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     最後に、「アイルランド人って、基本的に迷信深いんです」とクラーク監督は笑って言った。 

    「映画本編に“妖精の木”というものが出てきますが、アイルランドの森には実際に“妖精の木”と呼ばれるものがいくつもあります。そして、ああいう木は絶対に切り倒されません。農作物のためとか住宅開発のためとか、そういう理由があったとしてもまず切らない。 

     なぜなら、“妖精の木”を切った人には、よくないことが起きる。そういう話が、口伝えで普通に残っているからです。『あの木を切った人は、眠れない体になってしまったらしい』とか、身体的な代償を払わなくてはならない話が多くて、それが当たり前のように共有されているんですよ。 

     正直に言えば、私は迷信を信じないタイプです。でも、“妖精の木”を切るかと聞かれたら……切らない(笑)。迷信を信じていないと言いながら、無視できないんです。それが私たちアイルランド人の姿なんですよ」 

     今回、クラーク監督に話を訊いて実感したのは、映画「FREWAKA」が映し出していた土着の祈りや呪いのような“何か”は、多くのアイルランド人が生活の中で自然に抱いている“畏れ”の中にあるものだということだ。いわば、日本人にとっての「黒猫が横切ったら不吉」みたいな感覚を前提に映像化されたものと捉えると、本作の味わいはまた深くなるであろう。 

     というわけで、全編がアイルランド語で紡がれた初の長編ホラー映画「FREWAKA」、ぜひ多くの人にご覧いただき、それぞれの考察を深めてほしい。

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    「FRÉWAKA/フレワカ」
    監督・脚本:アシュリン・クラーク
    キャスト:クレア・モネリー、ブリッド・ニー・ニーチテイン(『イニシェリン島の精霊』)
    2024 年/アイルランド/103 分/カラー/スコープ/5.1ch/日本語字幕:高橋 彩/映倫番号:G/60764 配給:ショウゲート
    https://frewaka.jp/
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    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
    https://sugiuraminako.edire.co/

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