スーパーで買えるキノコで脳の機能をブースト!? 知られざるキノコのスーパーパワー研究最前線

文=久野友萬

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    幻覚作用だけではない! 近年、キノコが私たちの心身にもたらす驚異的パワーが次々と明らかになってきた。

    キノコの幻覚成分に意外な利点

     幻覚成分を含むキノコは、聖なるアイテムである。中南米では古くから宗教儀式に使われてきた。メキシコのシャーマン、マリア・サビナによるシビレタケを使った儀式は、1955年に真菌学者のロバート・ゴードン・ワッソンによって西洋世界に紹介された。

     幻覚性キノコはベニテングタケやシビレタケなど、世界に150~180種存在する。ベニテングタケに含まれるムッシモールは、酒のような酩酊感を引き起こす。シビレタケには幻覚成分のシロシビンもしくはシロシンが含まれる。

     いわゆるハイになる成分として知られるシロシビンに、意外な薬効があることがわかり始めた。名城大学の衣斐大祐准教授は、シロシビンはセロトニン5-HT2A受容体を刺激し、抗うつ作用があることを発見した。幻覚を伴わずに抗うつ作用のみを発現させる方法がわかれば、新しいうつ病の薬ができる。

     抗うつ作用だけではなく、強迫神経症の改善にも利用でき、アメリカではシロシビンを使ったメンタルヘルス治療が一部で承認された。また、医薬品メーカーCybin社はシロシビンの舌下錠を開発、認可に向けて臨床試験を進めている。

    知られざるキノコの薬効たち

     幻覚性キノコだけではない。ここにきて、キノコの薬効が次々と判明しつつある。

    ヤマブシタケ 「写真AC」より引用

     最近ではヤマブシタケとタモギタケに注目が集まっている。ヤマブシタケは白いフワフワしたキノコで、一般のスーパーでも取り扱いのあるキノコだ。ヤマブシタケに含まれるヘリセノンDとエリナシンCという成分は神経成長因子(NGF)であり、脳神経の成長を促し、ニューロンの破壊を防ぐことからアルツハイマー症の治療に使えるのではと注目されているのだ。

     また、ヤマブシタケの成分が脳神経を成長させることから、頭を良くしたり情緒を安定させる作用もあるのではないかと考えられている。記憶力増強効果はすでに確認されていて、豪クイーンズランド大学の研究では、キノコの抽出物を与えたマウスの記憶力が明らかに向上したのだそうだ。

     こうした効能からヤマブシタケを配合した健康飲料まで販売され、天然成分の精神安定作用や、スマートドラッグ(脳の機能強化剤)として人気を博しつつある。

     また、キノコ類には抗腫瘍作用のあるβ-D-グルカンも多く含まれており、初期のガン細胞なら成長を阻害し、治療するのではと期待されている。完全にガン化した細胞には効かないため、こちらに関しては現状、あくまでも予防が期待できる、という程度のようだが。

    脳をブーストする黄色のキノコ

     東北地方から北海道で採れるタモギタケは「幻のキノコ」と言われ、地元以外ではなかなか手に入らなかったが、近年は培養技術が進んでスーパーでも買えるようになった。

    スーパーでもたまに見かける黄色いキノコ「タモギタケ」。脳を活発に動かす作用があるらしい。元気がない人はタモギタケだ。

     タモギタケには抗酸化作用と脳神経の成長を促すエルゴチオネインが大量に含まれている。エルゴチオネインには脳の機能を全面的にブーストする力があるらしく、抗うつ作用に加えて記憶力まで増強するという。

     健常者及び軽度認知症患者に対して、タモギダケから抽出れたエルゴチオネインを3か月、毎日5ミリグラム与えたところ、認知症が大幅に改善したのだそうだ。コントロール群に比べてほぼ2倍のスコアだというからすごい。記憶力に自信がない人は、モテギタケを毎日食べるといいかもしれない(すでにエルゴチオネインのサプリメントも販売されている)。

    エルゴチオネインの抗うつ作用。マウスのエサにエルゴチオネインを含ませたところ、濃度が濃くなるほど(グラフ左)じっとする時間が短くなり、活動的になった。

     この他にも、エルゴチオネインにはエラスターゼ活性阻害作用、チロシナーゼ活性阻害作用もあることから、関節痛の軽減や美肌効果のほか、食物繊維によるコレステロール低下、血糖値の改善まで期待できるというから、もはやタモギダケさえ食べていればいいんじゃないかという気もしてくる。

     ヤマブシタケとタモギタケに注目が集まっているのは、全世界的にアルツハイマー症が深刻な問題となっているからだ。現状では有効な治療法もなく、脳の血流を増やすことで進行を抑えるのが精いっぱいだ。キノコの成分で脳機能が改善するなら、量産も容易だから多くの人が救われる。もちろん予防効果はそのまま脳機能の改善でもあり、中高年以上は積極的に食べるに越したことはない。

     もしかしたら、キノコで知られざる脳の機能が目覚めることさえあるのかもしれない……研究が進めば。まさに、マジカルなマッシュルームである。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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