UFOや幽霊の目撃相次ぐグラストンベリー・フェスティバル開催! 音楽の祭典はオカルトの祭典でもあった
世界で最も有名な夏フェスのひとつ、「グラストンベリー・フェスティバル」。音楽ファンであれば一度は足を運んでみたい場所だが、近年は“オカルトの祭典”としても熱い注目を集めている!
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前回「邦楽編」に続き、不思議なメッセージが隠されてしまった音楽の洋楽編をお届け。その声の主は、悪魔だ!
前回は「レコードに刻まれた怪異 邦楽編」として、昭和の時代にメディアでよく取りあげられた「霊の声が録音されてしまった歌謡曲」の数々を考察(というほどでもないけど)してみた。今回は同テーマを洋楽、主にロックをネタにやってみようと思っている。
しかし……最初からつまらない結論じみたことを言ってしまえば、「レコードに霊の声」というネタは、どうも欧米ではあまり好まれないらしい。紹介したくなるような事例がほとんど存在しないのである。
いや、あるにはあるのだ。
たとえば、ロックとオカルトという話になると、昔から必ず引き合いに出されるブラック・サバス。ヘビーメタルの開拓者的存在であると同時に、サタニズムやブラックマジックのイメージとメタルを結びつけた功労者(?)でもあるバンドだが、彼らの1stアルバムのオープニング曲「黒い安息日」(1970年)のイントロ部分に「不気味なささやき」が入っている、という説があるらしい。しかし、そもそもこの曲は嵐の音、不穏に響く教会の鐘など、ホラー風味のSEが満載。思いっきり怪異を演出しまくっている曲なので、妙な音が入っていたところでSEの一種だと考えるのが自然だろう。昔から何度も聞いているが、違和感のある声など聞き取れたことがない。
さらに、これは今回リサーチして初めて知ったが、ドアーズのラストアルバム『L.A.ウーマン』に収録された後期の代表曲「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」(1971年)の終盤に、これまた「不気味なささやき」が入っている、というネタも一部で語られている。僕は中学・高校とドアーズにハマりまくっていたが、当時はそんな話は聞いたことがなかった。この曲も雷鳴や雨音などのSEをふんだんに使っており、これもやはりSEの一部か、あるいはジム・モリソンの声なのだと思う。あらためて聞きなおしてみても、特に違和感を覚える箇所はない。
一風変わったところでは、昔は12月になると流れまくっていたワムの「ラスト・クリスマス」(1984年)。あのチャラけた曲にも「不気味なささやき」が入っているという噂があるという。これについても確認してみたが、僕にはまったくわからなかった。
……話がどんどんつまらなくって恐縮だが、ちょっと気になったのが、映画『バックドラフト』(1991年公開の消防士映画)のサントラの噂。今ではすっかり巨匠となってしまったハンス・ジマーの初期作品だが、「バーン・イット・オール」という曲の途中に、小さな声でささやかれる日本語の「助けて……」という台詞がはっきり聞こえるという。これも僕には聞き取ることができず、どうも現行のリマスター盤では修正されてしまっているそうで、旧盤でなければ聞けないらしい。真偽のほどはわからないが、このネタが話題になったのはあくまで日本のみ(台詞が日本語だから、ということなのかも知れないが)。欧米ではほとんど取りあげられていない。おもしろいことに、かのニルヴァーナの「サムシング・イン・ザ・ウェイ」にも、同じく日本語の「助けて……」の声が入っている、という話もあるようだ。
しかし、いずれにしてもこの種のネタが盛りあがった痕跡は欧米にはなく、せいぜいが「そういうことを言ってる人もいる」といった程度なのである。では、欧米人はレコードに怪異を感じることがまったくないのかというと、そんなことはない。少し角度を変えて探してみると、ごっそりと無数の事例が出てくるのである。

欧米人がレコードから聞き取るのは「霊の声」ではなく、もっぱら「悪魔のささやき」らしい。「このレコードには悪魔のメッセージが隠されている!」という話には、「霊の声」には無反応な彼らも過剰に盛りあがりまくり、盛りあがりすぎて深刻な社会問題に発展したり、大規模な不買運動が起こったり、裁判沙汰になったりといったことが周期的に起きている。さらにはレコード店が焼き討ちにあったり、最悪の場合には人死にが出たりもしているのである。
こうした「悪魔のレコード」の事例は枚挙にいとまがない。いちいち挙げていくときりがないほどで、特にヘビメタ関連では多くのバンドがやり玉にあげられている。先ほど「黒い安息日」を例に出したブラック・サバスも同様で、「悪魔の和音」を使用するサタニックなバンドとして糾弾され続けてきた。
「悪魔の和音」とは「トライトーン」と呼ばれる三つの音であり、いわゆる「三全音」「減五度」のコードである。例えばGのパワーコードなら通常はルートがG(ソ)、次にD(レ)を重ねて、さらにオクターブ上のG(ソ)を鳴らす。この中央のDを半音下げる形(レ♭)にしたのが「トライトーン」。不安定な不況和音となり、中世では「人に不安と動揺を与える悪魔の和音」として、特に宗教音楽からは慎重に排除されてきた。これをあえて多用し、以降のヘビメタの定番コードとして普及させたブラック・サバスは「意図的にサタニズムを蔓延させた」と聖職者やら一部保守派の人々から攻撃された。
「ロックが悪魔崇拝を流布させている」という主張は、プレスリーの時代から昨今まで、無数のミュージシャンや楽曲を標的にして繰り返されている。ロックとサタニズムの関連は本連載でもストーンズなどを例にとって何度か解説しているが、ともかくロックはその歴史のはじまりから、主にアメリカ南部・中西部のキリスト教保守、特に福音派などから「悪魔の音楽」呼ばわりされ続け、その時代ごとに若者を熱狂させるバンドのレコードは何度となく「焚書」ならぬ「焚レコード」という形で燃やされたりしてきたのである。
80年代に大きな騒動となった「PMRC」(ペアレンタル・ミューッジック・リソース・センター。のちに副大統領となるアル・ゴア夫人のティッパー・ゴアら「ワシントンの妻たち」によって結成されたポップミュージック弾劾組織)も、基本的にはこうした流れの延長線上にある排斥運動だ。
彼らはシーナ・イーストンからヴェノムまで、理解に苦しむような基準でセレクトした「最も不愉快な15曲のリスト」を掲げ、特定のロックやポップミュージック(やはりヘビメタ関連が多い)を子どもたちから遠ざけようとした。弾劾の基準となる曲の要素について「暴力」「性的表現」「ドラッグ」「アルコール」などの項目を羅列していたが、そのなかには「オカルト=悪魔崇拝」も含まれている。

上記のような保守層からの言いがかりに強烈な信憑性を与えてしまったのが、例の「チャールズ・マンソン事件」(1969年)である。これも本連載で触れたことがあるが、カルト化したヒッピー集団「マンソン・ファミリー」が女優シャロン・テートを惨殺した事件だ。60年代アメリカを席巻した「愛と平和」のヒッピームーブメントは、これによって最悪の形で収束した。犯行の理由として裁判で提示されたのが、「彼らはビートルズの『ヘルター・スケルター』という曲に『殺れ!』と命じられた」というものだった。「Devil made me do it(悪魔が俺に命じた)」という裁判の証言で知られる1981年の悪魔憑き殺人、「アルネ・シャイアン・ジョンソン事件」と同種のパターンである。
ビートルズの二枚組アルバム、通称『ホワイトアルバム』に収録された「ヘルター・スケルター」は後のヘビメタの様式に多大な影響を与えたハードかつヘヴィな楽曲で、その不可解な歌詞をマンソンの仲間たちは「黙示録的」に曲解したとされている。本来は遊園地の大型滑り台を意味する「ヘルター・スケルター」は「来るべき人種間戦争」を示しており、これが世界に終末をもたらす「最終戦争」となることを予見している、と彼らは捉えていたという。犯行は「最終戦争」の火ぶたを切るための行為だったらしい。ハルマゲドンの誘発が、なぜ妊娠中の若い女優を、その三人の友人ともどもめった刺しにして殺害することに繋がるのかはまったく不明だが、彼らは事件現場に被害者の血で「Helter Skelter」と書き残している。
こうしたケースはどう考えても狂信的なファンの「言いがかり」だし、聖職者などによる反ロック運動についても先述した通り「保守層からの言いがかり」としか思えないものが多いのだが、もちろんそうとばかりは言えず、60年代から70年代にかけては多くのロックバンドがサタニックなイメージを積極的に作品に利用した。80年代以降のヘビメタバンドが「悪魔」「地獄」「殺人」といった露悪的イメージを楽曲やジャケットに利用するのは商売としてわかりやすく、むしろ罪はないが(とはいえ、ノルウェーのブラックメタルバンド、メイヘムのように最終的には教会への連続放火、殺人、自殺といった凶行に至るケースもあった)、60~70年代にはメジャーなミュージシャンがかなり本格的にサタニズムや黒魔術の世界に没入するケースが多く見られた。よく知られているのがレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジだが、彼が熱中していたアレイスター・クロウリーの「魔術」(および、その遺志を継いだケネス・アンガーの「扇動」)はヒッピームーブメント期のスピリチュアルブームの延長のような形で、ビートルズやストーンズなど、多くのバンドに多大な影響を与えている。
ツェッペリンには次回で触れるが、昔からよく論争のネタになっているのがイーグルスの超特大級ヒット曲「ホテル・カリフォルニア」の歌詞である。「サタニックな意図が隠されている」として糾弾されることが多かった。一読すると、一瞬の幻のように消え去ったヒッピームーブメント後の西海岸が虚しく形骸化してしまったことへの諦念……のようなものを歌っているようにも思えるが、とにかく非常に謎めいた曖昧なフレーズによって不気味なストーリーが綴られている。
詩を要約しても無意味だと思うが、一応やっておくと……
一夜の宿を求める主人公は、ロウソクを手にした少女に導かれ、「ホテル・カリフォルニア」に「参入」する。
贅沢な調度と、夢のような美男美女のダンス。そこであの非常に有名な一節、「ワインをくれ」「1969年以来、当ホテルにsprit(酒、精神)はありません」という会話をボーイ長と交わした後、「みんなは鋼鉄のナイフでめった刺しにしたが、その獣を殺すことはできなかった」と不可解なシーンが唐突に展開される。
恐怖に駆られたらしい主人公は混乱してホテルから逃げ出そうとするが、夜警に止められてしまう。
「あなたはいつでも好きなときにチェックアウトできます。しかし、このホテルから外へ出ることは決してできません」
ーーこの詩を「サタニズムの儀式のプロセスの暗喩(悪魔主義者としての覚醒に至るまでの段階を語っている)とする説は今も根強いらしい。「Church of Satan(悪魔教会)」創設者のアントン・ラヴェイとの関連も指摘され、また同タイトルのアルバムジャケットに彼らしき人物が写っているという話も有名だ(「心霊」が映っている、という説もある)。
こうした「ロックミュージシャンはレコードに仕掛けた『悪魔のメッセージ』によって若者を洗脳しようとしている!」という保守層からの主張が最もリアリティを帯び、過激に叫ばれたことによってさまざまな形で社会現象に発展してしまったのが、「浮ついた時代」と回顧されることが多い1980年代だった。
60年代から続いたカウンターカルチャー(戦後民主主義的若者文化)に対するキリスト教勢力および各保守層の側からの強力なカウンター、「巻き返し」のための宣戦布告は、あの時期に本格的に顕在化している。現在の「文化的・思想的内乱状態」のアメリカは、おそらくその延長線上にあるのだろう。
次回は、80年代にロックのレコードが「事件化」したいくつかのケースと、弾劾者たちが主張する「レコードにサタニックなメッセージを密かに仕込むテクニック」について紹介してみたい。

初見健一
昭和レトロ系ライター。東京都渋谷区生まれ。主著は『まだある。』『ぼくらの昭和オカルト大百科』『昭和こども図書館』『昭和こどもゴールデン映画劇場』(大空出版)、『昭和ちびっこ怪奇画報』『未来画報』(青幻舎)など。
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