肉体を超越したアンドロイド観音「マインダー」が「空」の思想を語る! 京都・高台寺が拓く新しい法話を体験
京都の高台寺には、アンドロイドの観音像がある。動き、語り、般若心経を唱える「マインダー」は、令和に向き合うべき仏と衆生の関係を示している。ーー現地で、その法話を体験した。
記事を読む
AIがホワイトカラーの仕事を代行し、人間型ロボットが肉体労働をこなしてくれる時代が来る。そのとき人間はローマ貴族のように寝て暮らすだけでいい? 本当に?
中国製ロボットが驚異的な進歩を遂げている。ロボットが日本のお家芸だった時代はとっくに過ぎ、今や中国と欧米がガチの競争をしている脇で日本は完全に置いてきぼりだ。
ASIMOやAIBOを産んだ日本のロボット技術がなぜこうもあっさり中国や欧米に負けたのか? 原因は2つある。1つは早すぎたことだ。
日本のロボットが世界で初めて成功した二足歩行は、日本人ならではの職人技でバランス制御を行っていた。当時はバランス職人みたいなエンジニアがいて、その人たちの作ったシステムじゃないと二足歩行なんてできなかった。逆に言えば、量産に向かない。まったく同じに見えるロボットも個体ごとにわずかな差異がある。それを職人技で修正しないと二本足で歩いてくれない。しかも自由度が低いというか皆無。スタートとゴール決めたら、あとはロボットが自立して歩いてくれるという便利なものではなく、決まったルートしか歩けない。ルートを変えると倒れてしまう。正直に言えば、そんなもの、何の役にも立たない。
では今はどうなのかというとAIがすべてを解決した。AIがバランス制御をトライ&エラーで克服するので職人技もいらないし、強力なCPUがあれば、リアルタイムで演算してバランスの修正もできるので、ゴールを設定すれば途中がどうであっても歩いてしまう。日本は二足歩行ができたものの、そのままでは商売にできないことに気づき、開発をやめてしまった。日本が手を引いてからAIが生まれ、厄介だったバランス制御を軽々と解決してしまった。
日本がそれでもジリジリ研究を続けておけば良かったのだが、あとの祭りである。一度手を引いた分野に再投資するのは容易ではない。
そして二足歩行にこだわったあまりに、上半身のマニュピレーター単独の商品化を思いつかなかった。今、欧米で製品化を進んでいる人型ロボットは、大半が上半身のみで下半身は固定かタイヤだ。工場労働者の代替で考えるなら、歩く必要がない。汎用性と商品の認識能力を高めれば、移動能力は犠牲にして構わない。
ではなぜ中国が二足歩行ロボットを開発しているかと言えば、当然、軍事だ。たとえ一体作るのに何十億円かかっても、ハードは量産すれば安くなるし、ネットを通じて瞬時に体験が共有できるAIは、人間よりもはるかに兵士に向いている。戦場シュミレーションで好成績だったAIを搭載すればいいわけだ。
本題はここからだ。
すでにロボットは次の段階に入っている。
中国のKaiwa Technology社は不妊症対策として人工子宮付きのロボット開発を開始したという。
中国では不妊率が急上昇中で、2007年の7.5%から2020年18%以上であり、5組に1組のカップルが妊娠に苦労している。中国政府は一人っ子政策による出産率低下を問題視、2022年に約14億人でピークを迎えた人口がその後60年ぶりとなり、このままでは2100年までにほぼ半減し、8億人になる可能性があるからだ。
若年層労働者の増加=人口ボーナスが終わった国は衰退が始まる。特に人口減少は中国の製造業とサービス業を直撃し、世界の工場としての役割に陰が差す。2050年までに、中国国民の約3分の1が60歳以上になるため、人口減少を止めることは国家的な急務なのだ。
同社では人工子宮技術はすでに完成しており、あとはAI制御の管理システムをブラッシュアップするだけと自信満々だが、かなり怪しい。
現在、研究されている人工子宮は胎児を育てるのではなく超未熟児を救命するためのもので、中国以外では受精卵から胎児を作り、胎盤で栄養供給をする仕組みはまったく目途が立っていない。もし本当に彼らが人工子宮の技術が確立しているというのなら、国際的に禁止されている人間の受精卵を使った実験を行っていることになる。
特に人工胎盤をどうするのかが不明だ。AI制御の栄養チューブと排せつチューブで胎児の成長を管理するというが、動物の胎児を使った実験ではそこまではできていない。
非常に怪しい話だが、それでも見切り発車するのが中国らしいところ。なお同社では10万元(約1万3000~1万4000ドル)以下の価格帯での市販化を行うという。投資詐欺なのか世紀の発明なのか政府のプロパガンダなのか、注視したい。
ユニークなのは中国科学院遺伝発生生物学研究所が開発した「GEAIR」(全プロセス型インテリジェント育種ロボット)だ。AIを使って植物の個体ごとの特性を判別、苗と苗の掛け合わせまで行うという品種改良ロボットである。
人間が行うよりも数多くの組み合わせを試せるため、品種改良の次元が大きく変わる可能性がある。
ともあれ、人間らしい動きを取り入れていくロボットの次なる課題は、人間との共生だろう。これまでの工業用ロボットとはベクトルが違う。ファミレスの猫ロボットが皿を置いて皿を下げるところまでやれるようになるのが、現在開発中のロボットだ。
まず徹底したシミュレーションが必要になる。日本で一時期さかんに研究された介護ロボットが軒並み中止になったのは、万が一でも倒れたら事故死が起きるからだ。人間を支えるだけのモーターを積むとロボットの自重は軽く100キロを超える。そんな大きなロボットが倒れたら、事故死とまではいかなくても、とても一人では動かせない。
日本はAIの使い方が下手というか真面目すぎるらしい。シュミレーションを行うにしても、現実をそのまま仮想空間に作ろうとして失敗する。紙屑だって真面目にCGを作ったら、バカみたいにデータが重くなる。このあたりは海外のエンジニアの方が臨機応変で、現実にはあり得ない極端な環境でシミュレーションを行う。ツルツルの床やレゴぐらいの立体が床を埋め尽くしているような環境だ。AIは学習するので、極端な環境を克服すると一般的な環境を余裕でクリアする。この足し引きの塩梅がわかれば、日本のロボット産業にも可能性はある。
今後のロボット技術を示すキーワードに「フィジカルAI」がある。人間と同様の五感をロボットに持たせ、五感の情報をAIに学習させる。AIに人間並みの自律性を持たせるには、人間同様の五感の情報を学習させる必要があるためだ。
日本のメカトロニクス技術はいまだ世界トップクラスだ。AI制御で後塵を拝しているとはいえ、駆動系の技術ではまったく負けていない。たとえばソニーの開発した球体型車輪は、全方位に移動可能で不整地も踏破する。
センサー類の技術も日本は最高レベルで、世界初のRFID内蔵カード「SUICA」を作った技術は今も健在。先日も株式会社FingerVisionが食品用にロボット用の触覚センサを発表した。このセンサがあれば、ロボットでも壊れやすい食べ物も人間の手のように繊細に扱えるのだ。センサ感度は世界最高レベルであり、今は人間しかできない弁当の盛り付けもロボットができる!
今後、少なくとも工場はすべてロボットによるラインの無人化が可能になるだろう。そうなれば工場は国内に戻って来る。単純労働者の職場がなくなる? まさに少子化とのバーターでモダンタイムスのような非人間的仕事から人間は解放される。AIで余計な知恵をつけさせることはない。純粋な労働力としての人間型ロボットを量産すればいいのだ。
農業の生産力は戦前と今では200倍の差がある。工業もそうなるだろう。現在1万人が必要な工場は100人で動かせるようになる。しかも農業が高齢人口で支えられているように、高齢化したエンジニアが工場の主になる。
鍵はメカトロニクスだ。手塚治虫の夢みたロボットと人間の共生社会は、案外と日本から始まるかもしれない。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
関連記事
肉体を超越したアンドロイド観音「マインダー」が「空」の思想を語る! 京都・高台寺が拓く新しい法話を体験
京都の高台寺には、アンドロイドの観音像がある。動き、語り、般若心経を唱える「マインダー」は、令和に向き合うべき仏と衆生の関係を示している。ーー現地で、その法話を体験した。
記事を読む
脱走したロボット掃除機の話など/南山宏のちょっと不思議な話
「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2025年9月号、第497回目の内容です。
記事を読む
魔術的技法で生みだされた人造人間「ホムンクルス」の謎/羽仁礼・ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、容器の中で人工培養によって生みだされる小さな人造人間「ホムンクルス」について取りあげる。
記事を読む
「エリア51」極秘地下施設の入口をついに発見!? 異星人「トールホワイト」が潜んでいる可能性を著名研究家が指摘
多くの謎に包まれた米国の軍事施設「エリア51」。UFO研究施設とも噂される秘密基地周辺で、異星人「トールホワイト」が潜む地下基地への入口が見つかった!?
記事を読む
おすすめ記事