UMA、オーパーツ、フォート…70年代に日本オカルトの基礎を築いた功労者/超常現象研究家 南山 宏(7)

文=羽仁 礼

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    1970年代に巻き起こったオカルトブーム!バミューダの消失海域やオーパーツ、ロズウェル事件などなど―― 今日ではオカルト分野で周知されるものとなったこれらの陰にはひとりの研究家の存在があった!南山宏、その人である。 日本に超常現象の魅力と知識の土台を作ったパイオニアの肖像に迫る!

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    超常現象研究家として躍進

    「SFマガジン」編集長と超常現象研究家の二足の草鞋は、1974(昭和49)年に早川書房を退社して終了する。
     会社に対しては、健康上の問題を名目に退社を申し入れたが、理由は他にいくつかあった。
     まずは早川書房に労働組合が結成され、しかも南山氏が採用したSF課の社員たちが、委員長や書記長など組合の主力となったことだ。当時課長として管理職の立場にあった氏としては、学生時代に自らスカウトしてきた、いわば子飼いともいえる社員たちと会社との板挟みにはなりたくなかった。
     副業のはずの超常現象関係の収入が本業の給料を上回ったという事情もあった。さらには南山氏の中で、超常現象に対する関心がSFに対する興味を上回ったことも大きな要因だったようだ。それもあって、退社後は長い間早川書房を訪れることはなかった。これは一種のけじめであったろうが、やはりSFよりも超常現象に対する興味のほうが強くなった結果だろう。

     こうして、超常現象研究家として一本立ちした翌年、1975(昭和50)年に翻訳したチャールズ・バーリッツ著『謎のバミューダ海域』が、早速140万部ともいわれる一大ベストセラーとなった。
     フロリダ半島の先端とバミューダ島、プエルトリコを結ぶ三角形の海域は、通称「バミューダ・トライアングル」と呼ばれている。この名称はアメリカの奇現象研究家ヴィンセント・ガッディスの命名で、この区域で航空機や船舶がしばしば謎の消滅を遂げるという噂は古くから存在したが、それが一般に広まったのはこのチャールズ・バーリッツの著書が世界的ベストセラーになったことによる。
     翻訳は徳間書店から依頼された。他にも翻訳家はいたが、「日本SF作家クラブ」の名簿を見ていちばんUFOに詳しそうだったからということで白羽の矢が立ったという。

     この大ヒットによって南山宏の名も高まり、その後雑誌やテレビの取材で何度も海外を訪れた。
     イギリスを訪れたときには、「フォーティアン・タイムズ」を創刊したジョン・ミッッチェルとロバート・リカードとも会見した。その際、甲府事件について説明した英文資料を手渡したところ日本特派員になるよう要請され、以後「フォーティアン・タイムズ」には長年にわたり、日本特派員として「Masaru Mori」の名が掲載されていた。しかし本人は、特派員らしいことは何もしなかったと述べている。

    世界的ベストセラー『謎のバミューダ海域』(下)の著者チャールズ・バーリッツと。南山氏は翻訳を担い、ベストセラーとなった。
    世界的ベストセラー『謎のバミューダ海域』

    南山宏が超常現象の〝常識〟にしたもの

    「未確認動物」を意味する「UMA」という名称は、實吉達郎氏が1976年に出版した『UMA謎の未確認動物』で世間に登場するが、この和製英語を発明したのが南山氏だということは今やよく知られている。海外では通用しない和製英語であるので、本人としてはあまり使いたくなかったようだ。「オーパーツ」という言葉を日本で広めたのも南山氏だ。

     1978年にパシフィカから出版されたレニ・ノーバーゲンの『オーパーツの謎』で日本に初上陸したが、本格的に広まったのは南山氏が二見書房から出した『オーパーツの謎』(1993年)以降である。この本もベストセラーとなって、以後『奇跡のオーパーツ』(1994年)、『宇宙のオーパーツ』(1995年)とシリーズ化されて何冊も関係書が出ている。

     他にも、自ら関係書を執筆するのと並行して、湖水で目撃される世界の怪獣を網羅したピーター・コステロの名著『湖底怪獣』(1976年)、ヒル夫妻事件を扱ったジョン・G・フラー著『宇宙誘拐』(1982年)、ロズウェル事件について初めて日本に紹介した『ニューメキシコに墜ちた宇宙船』(1981年)など、海外で話題になったベストセラーや超常関係の重大事件に関する著書を続々と翻訳し日本に紹介している。

     本誌「ムー」との関連では、初代森田編集長が創刊前に氏を訪ねて企画の相談を行っており、初登場は、創刊第2号にあたる1980(昭和55)年1月号の「【衝撃レポート】20世紀最大のミステリー 墜落UFOの謎を追う!」という記事だ。「南山宏のちょっと不思議な話」の連載は、1984(昭和59)年5月号から40年以上途切れることなく続いているし、2002(令和4)年9月号から始まった「南山宏の綺想科学論」もほぼ隔月で継続している。他にも総力特集や2色刷特集、現地レポート記事など数多くの記事を何度も執筆していただいている。

     その南山氏が現在取り組んでいるのが、チャールズ・ホイ・フォートの著書の翻訳である。
     チャールズ・ホイ・フォートは、生涯世の中の奇妙な事件を収集しつづけ、超常現象研究の先駆者と目されている。前述の「フォーティアン・タイムズ」もフォートの名をもじった命名で、欧米の著作ではその内容が引用されることもしばしばだ。しかし日本では、彼の著書は1冊も訳されていない。そのフォートをまともに訳せるのは、日本では南山氏しかいないだろう。大変な作業だが、われわれも南山氏にエールを送りながら、日本語版の出版を楽しみに待つことにしよう。

    英超常現象研究誌「フォーティアン・タイムズ」共同編集人ポール・シーヴキング(左)、ロバート・リカード(中)と南山氏。
    「フォーティアン・タイムズ」1996年8月号の海外特派員一覧。南山氏の名前は、長年、日本特派員として掲載されていた。
    2002年からほぼ隔月で連載中の「南山宏の綺想科学論」。
    年齢を感じさせないアクティブさで、今も新たな挑戦を続ける南山宏氏。伝説はこれからも続く!

    ●参考資料=『僕らを育てたSFのすごい人南山宏編』(アンド・ナウの会)『僕らを育てたSFの凄い人柴野拓美インタビュー』(アンド・ナウの会)「初代編集長福島正実講演採録」「第2代編集長森優ロングインタビュー」(『「SFマガジン」2014年7月号』「「SFマガジン創刊700号記念歴代編集長トーク・イベント」採録」(『SFマガジン2014年9月号』『未踏の時代』(福島正実/早川書房)『宇宙機』21号(日本空飛ぶ円盤研究会)他

    (月刊ムー 2024年11月号)

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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