「超音波による脳操作」研究の最前線! 医療に革命か、最悪の洗脳技術か?/久野友萬
超音波で脳を操る、そういうことが研究されている。超音波を使って、脳を遠隔操作するのだ。なんだかよくわからない話だが、超音波がどういうものか知れば、理解できる。
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なぜ日本人にはクラシック音楽で“超えられない壁”があるのか、その謎に挑んだ男がたどり着いた究極の聴覚トレーニングシステム。そのパワーは、音楽以外のさまざまな面にも及ぶのだった――!
音は脳に影響する。たとえば超音波は耳には聞こえないが、10分ほど聞くだけで脳からアルファ波が出始める。リラックスするのだ。熱帯雨林の中で進化した私たちは、熱帯雨林の環境音に含まれる超音波に反応しやすい脳を持っているのだ。
超音波以外にも、音には未知の機能がある。とある音楽家が見つけた不思議な音響システムは、脳の機能を引き出し、英語などの外国語会話ができるようになるうえ、運気向上や体調さえ整えるという。
怪しい。ものすごく怪しい。
その怪しい音響システムを作ったのは、傳田聴覚システム研究所・所長の傳田文夫氏だ。クラリネット演奏家であり、洗足学園大学音楽学部で長年講師を務めていた教師でもある。
教師としてクラシック音楽を教えていると、日本人にはどうしても超えられない壁があるのだという。
「聴き比べてみましょう。まずは、国際的指揮者が指揮した曲です。日本で最高と言われてる音ですよ」
傳田氏がCDのスイッチを入れた。特にクラシックに造詣のない私は、ただ上手なキレイな曲にしか聞こえない。
「次にヨーロッパのオーケストラです。同じ曲ですが、違いがわかりますか?」
全然違う。疎い私でもわかる。テンポも音の切れ方も違う。
「国際的指揮者の音がだんだんフェードアウトしていくのがわかりますか? リタルダント(だんだん遅く)なんて譜面には入っていない、なのにこうなる」
傳田氏によれば、日本の音はうねるのだという。
「国際的指揮者の音楽を聴いて、向こうの音楽家は我々にはできない音楽だ、というわけです。わかります、珍しいから。要するにこれは演歌ですよ。こぶしを回す、あの音の使い方です。それをクラシックでやると、音がずっと消えずに後ろに残る。クラシックの演奏じゃないんです」
クラシックを日本人が演奏するとクラシックではなくなる。その原因は恐らく日本の音楽教育が間違っているためだ、と傳田氏は考えた。
「日本の音楽家の化けの皮を剥がしてやろうと研究を始めたんです」
いったいこの日本の音楽教育の間違いは、どこから来たのか? 問題点を上げていくと数千にもなった。それぞれに理由を考えていくが、芯からズレているというか根本的なところが外れている。何かが違うのだが、それが何かわからない。そんなことをずっと考えていた時だった。
「駅の階段を下りていたら、突然上から何かが降ってきて、針みたいなものが肩から脇腹へ突き抜けたんです」
激痛に呼吸が止まり、息ができずに座り込んでしまったという。あまりの痛みに雷に打たれたのかと思ったというから、尋常ではない。
「痛みが去って、立ち上がって空を見上げたら雲がぽっかり浮かんでいるだけで、雷なんて落ちそうにないわけですよ」
ケガも出血もなく、なんだったんだと首をかしげながら階段を一歩降りた時だった。
「ゲンゴ、と突然僕の耳に声がした」
階段をまた一歩降りると
「ゲンゴ」
また一歩降りるとゲンゴ。ゲンゴゲンゴゲンゴ……! なんだよ、こんな時にゲンゴって、と腹だたしく思った時、
(ゲンゴ……言語?)
傳田氏は気がついた。ゲンゴとは、「言語」。それがわかった瞬間、数年にわたり悩み抜いた疑問がすべてつながった。問題は言語だったのだ。クラシックをはじめとする欧米の音楽を日本人が演奏できないのは、日本語と欧州の言語が根本的に違うからだった。
日本語には子音がない、と傳田氏は考える。
「お母さんとお婆さんを聞き間違える人はいませんよね。ところが知り合いのアメリカ人は、日本に来て半年以上もお母さんとお婆さんを聞き分けることができなかったんです」
濁音と清音を聞き間違えるというのは、日本人ではありえないが、なぜアメリカ人は聞き間違えたのか?
「たとえば香港を英語で書くとHong Kongですが、この最後のgを日本語では発音しません。ホンコンです。でも英語では発音しているんです。日本人には聞こえていないだけです」
お母さんとお婆さんの場合、日本人は母音重視なので「お か あ さ ん」「お ば あ ちゃ ん」ときっちり音を切る。欧米人は欧米言語の癖で、「おうかぁすわん」「おうぶうあちやあん」のように聴こうとする。つまり、アメリカ人は“日本語にない音”を聞こうとして聞き取れず、混乱するらしい。
「日本人がいくら英語の発音マネしようとしても、どうしてもカタカナに近い音に置き換えてしまう。マクドナルドを日本語で発音道理に表記すると、恐らく『メクダヌルズ』になると思います。しかし日本人は、マクドナルドと置き換えてしまう。それが日本人が英語がダメな理由なんです」
日本語と英語では、音のタイミングも違えば、発音も違う。その違いが音楽にそのまま反映されている。
「西洋音楽の音階は日本語の区切り方とまったく違う。モーツァルトもベートベンも、構造的にものすごく優れた音楽だから、日本の音楽家はみんな惚れ込むわけです。だけど、その惚れ込んだ音楽を演歌の耳で聞いているんですよ」
傳田氏は日本語の耳を英語の耳に変えなければ、クラシックを真に理解して演奏することはできないと考えた。しかし演歌の、日本語の耳では聞こえない音を聞くにはどうすればいいのか?
「音楽には必ず形式があります。日本の音楽だってあるし、ヨーロッパの音楽はものすごく構造的ですから、次はこういうパターンが来るっていうのがわかりきっています。そこで、その予想を外してやることを考えました。バーチャルに音源を動かしたり、音質を変えたりして、ステレオで右側からだけしか音が聞こえない、後ろから音が聞こえる、音質がパッと変わるといった加工を行いました」
コンピュータで加工し、音の聞こえ方を脳が予想できない形に変えたのだ。
「最初は脳も抵抗します。何とか予想しようとする、ですが40秒ぐらい経過すると諦めてしまう。そうすると、40秒くらい聞いた後は、聴いたそのままの音を拾おうとするんですよ。脳が応答する能力を超えさせるわけですね」
メクダヌルズをマクドナルドに変換しようとする脳をギブアップさせ、メクダヌルズそのままを脳が受け入れるようにする……それが傳田式聴覚トレーニング・システムである。
傳田氏の音響システムを音楽家や音楽科の生徒たちに体験させると何が起きたか?
「たった1分半ですよ。1分半聞いた後に演奏させると、ピアノの前に座ってガンって鍵盤鳴らしただけで『わーっ!』て叫んで、試し弾きをすると涙ボロボロこう流して泣きながら弾く人もいるし、大笑いしながら弾く人もいるし。たった1分半で抜群に演奏が上手くなるわけです。何ですかこれって、生徒が弾きながら言うわけですね。この音楽は一体何を起こしているんですか、とね」
脳にある日本語の音のフィルターが解除されると、プロの音楽家が習得しようとしてもできなかった西洋音楽の生の音が、聞こえるようになる。だから演奏が本来のクラシックの音になるわけだ。
傳田式聴覚トレーニング・システムには副産物があった。どうやら脳は日本語のフィルターだけを外すという器用なことはできなかったらしい。脳の中のフィルター、つまり日々の習慣や無意識で出来上がった偏りをすべて外してしまうらしいのだ。
その結果、脳が関係するさまざまな症状にも変化が現れたという。
たとえば、風邪の直接的原因はウイルスだが、それを悪化させる要素は栄養や精神状態、生活習慣などさまざまだ。そのうちストレスのような脳と関係する部分がフラットになるため、ストレスが悪化要因となっていた風邪の場合はコンディション向上が期待できるらしい。
「味覚・嗅覚・視覚などの感覚器官がすごく鋭くなる。そして、全員ではないと思いますが、体験した人の多くは花粉症にも良い変化があった。アレルギー反応にも脳が関係しているのかもしれません」
傳田氏によると交通事故で背骨の関節がつぶれてしまった人や、難聴、自閉症などにも驚くような変化が見られたのだという。
東邦大学医学部の協力で脳の血流を測定したところ、傳田式聴覚トレーニング・システムを聴くと脳のさまざまな部位で血流が増加することがわかったそうだ。
血流が流れるということは、その場所が働いているということだ。フィルターが阻害して活動していなかった脳の部位にも血流が流れた結果、脳がコントロールする全身の治癒力が大幅にアップしたのだろうか。
脳が全体で活性化したためか、運が良くなったり、オーラが見えたり、予知能力のようなものが働いたりもするという。超能力はともかく、運が良くなるというのはありそうだ。運がいい人はストレスが少なく視界が広いという統計があるのだ。視界が広いので、さまざまな情報を偏見なく手にする。それが運の正体だと心理学では言われているからだ。
音を聞いてストレスがなくなり、感覚が鋭くなり、英語が上手になる。もしかしたら超能力もついてくる? なんだか人生が変わりそうな音の体験である。
傳田聴覚システム研究所
https://www.denchoh.com/
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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