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構成=宇佐和通 写真=我妻圭一
協力=学研プラス、ソリッドアライアンス
ムー編集長・三上丈晴による”仕事術”……なる、あやしい書籍が世に放たれる。その名も『オカルト編集王』! その刊行を前に、三上丈晴を自身をオカルトの道へ導いたオカルトテレビ王・矢追純一氏との対談が行われた。 矢追純一が見た三上丈晴の姿とは? ヤオイズムを継承したムーイズムとは?
2022年7月号で創刊500号を迎える「ムー」。超常現象を扱う特異な雑誌だけでなく、今や企業や自治体とのコラボで“あやしさ”を付与する独特の存在となっている。
その「ムー」が、また新しい形で世間と接触をする。5代目編集長・三上丈晴が入社以来の「ムー編集部」のキャリアと仕事術に関して語った『オカルト編集王』なる本が、古巣である学研プラスから出版されるのだ。
世界の謎と不思議を仕事にする「オカルト編集王」。ただ、この特異な響きを宿す言葉には大きすぎる“元祖”がいる。昭和に名作オカルト番組を数多プロデュースし、今なお現役で活動する矢追純一氏だ。今回、オカルトを生業とするお二人に直接言葉を交わしていただくことになった。
まずは、矢追純一氏という存在を三上編集長の言葉をそのまま借りて紹介しよう。
「矢追さんといえば、この世界ではまさにレジェンドです。小学生、いや幼稚園の頃から、生まれた時からすでに『木曜スペシャル』がありました。その木曜スペシャルでUFOであるとか、超能力であるとか、あるいはネッシーも日本人が広く知ることになったんです」
映像と出版という違いはあれ、お二人が同じジャンルで活躍してきたことは周知の事実だ。70年代からオカルトというジャンルのトップを走っていた矢追氏と「ムー」の接点はどんなものだったのか。
「もともとムーの中で、UFOやネッシー、そして超能力関係の記事はメインテーマです。矢追さんには総力特集も含めて原稿を書いていただいました。『地球人(アーシアン)へのメッセージ』という、エッセイ的な内容の連載もあったんですよ。
ユリ・ゲラーの来日を仕掛けたのも矢追さんですけど、ほかにもラリー・ウォーレンのような怪しい外人を日本に連れてくるんですよ。レンデルシャムの森のUFO事件の当事者を来日させようという発想からすごい。その記者会見も仕切っていらっしゃいました。さすがテレビマンだけに、フットワークの軽さを背景にした企画に『ムー』もご一緒にさせていただきました」
1979年に「ムー」が誕生した背景には、矢追氏がならした下地があったと言っていいだろう。誌面作りにも積極的に関わってきた矢追氏の目に、新時代のオカルトプロデューサーである三上氏とその著書『オカルト編集王』はどう映っているのか。
「やり手だなと思いますね。ムーの三上さんといえば若手のころから有名で、編集長になる前から『ムー』を動かしてきたんじゃないかな…裏で(笑)。『オカルト編集王』でもその手腕は明らかです。もともとエネルギーが強い人だから、それはやはり文章にも出ますね」
ヤオイズム。「ムー」読者の中心層は、日本のオカルトカルチャーに大きなインパクトを与えたこの言葉の影響を少なからず受けているはずだ。
三上氏は言う。
「一般に怪しいと言われているジャンルに『そんなのあるわけないだろ』という先入観を通り越して、勢い・リアル感・ライブ感で、ぶつかっていく。まさに矢追さんのやり方、“ヤオイズム”は自然と学びました」
独自の仕事術を通して映像媒体の新しいあり方を具体的に示した矢追氏の思考経路には、迷いが一切ない。
「何もしかけないし、計画もしません。僕は好奇心と行動力を持ち合わせているので、好奇心の向くままに出かけて行って、面白そうな人ならばカメラの前に連れてきちゃうということをやっていただけです。自分が好きなことをやっていただけで、ウケようという気は毛頭ないから……、本来はマスコミには向いていないかもしれません」
こう語るように、矢追氏は何に対しても媚びないのだ。
三上氏がすぐに反応する。
「これですよ。矢追さんは大衆に媚びない。興味があること、面白いと思ったものを追究していって、気が付いたら番組となり、作品となって、それを見た人が面白いと思う。あやしい世界についての話は、予定調和でやろうと思えばいくらでもできます。でも、それをやればやるほど嘘くさく見えます。見ている人は、ぶっつけ本番、リアルなところをちゃんと感じてるんじゃないでしょうか」
今回の対談のコアの部分がすでに表出したようだ。矢追氏に、もう少し詳しく語っていただくことにする。
「見ているほうは、匂いを嗅ぎ取るよね。これは予定調和だなと思うと、それはつまらないですよね。落としどころを最初に決めて作ると、見えすいたものになって面白くなくなる。何が出るかわからないところに面白さがあると思うんです」
先は考えないのだ。先を考えた瞬間に予定調和的の芽が生まれてしまうから、あえてそうはしない。先を考えないことによってリアリティと臨場感、そして共有感が生まれる。媒体が映像であろうと文字であろうと、それは変わらない。ヤオイズムそのものを感じさせる言葉は、三上氏の仕事観にも活かされているのだろう。
矢追氏の言葉はさらに続く。
「視聴者層は全然想定していません。自分がやりたいことをやれば、きっとみんなも面白いと思ってついてくるだろうという変な自信があるんです。人間だから、生きていればいろいろなことに興味があって、行ってみたいとか見てみたいと思うこともあるでしょう。だから、視聴者とはどこかで同じ考え方をしているだろうという自信のようなものがあります。それは決して予定調和ではありません。行き当たりばったりで進めていくのを面白いと思って、みんな『どうなるんだろう』と後からぞろぞろついてくる。自分の好きなことしかやっていないのです」
たとえばアメリカにエリア51の取材に行く。1970年代で1000万円(!)は必要だった取材費を会社に申請し、現金を手に空港から飛び立つ。そして、きっちり視聴率の取れる番組を作る。あっさり語ってはいるが「好きなことをやる」うえでは社内で相当な説得力と信頼を築いていたわけだ。
「会社には『行ってくる』と言うだけです。一応プロの端くれだから、ちゃんと採算とれるようにしますよ、という暗黙の了解が裏にありました」
はたから見れば、やりたい放題だったに違いない。ただその背景には、矢追氏しかまとうことができない信念と信頼感があったはずだ。
三上氏も同じ気持ちを語る。
「それは自分の経験からも感じます。何のあてもなく、とりあえず行こうという流れで取材をすることもあります。最初からこういう記事を作りたいから行くというのではなく、とにかく記者に動いてもらう。協力するテレビ番組では、現地に行くことと作りとか嘘を絶対にやめようと約束しています。実際に行って、『出ませんでした』というのをそのまま放送しよう、情報を得て現地に行って取材をするということが大切なんです」
矢追氏も同じ図式を共有しているようだ。
「見ている側が一緒に行っている気になれば、結果はダメであるかもしれないけれど、そこまでの経過を一緒に味わっていくわけじゃないですか。それが楽しいんだと思うんだよね。結果は、多分どうだっていいんです」
めったにない組み合わせの対談に同席させていただいた者として筆者が一番感じたのは、特異な分野で突出した存在になったお二人の“引きの強さ”のようなものだ。思いのまま自由に動くプロセスがそのまま番組や記事になってしまうのだから、超能力とは言わないまでも“高能力”の使い手であることは間違いない。
1970年代の日本を熱狂させたヤオイズムは、令和に入った今の時代において三上氏に継承された。そしてそれを可視化しているのが、ほどなく出版される『オカルト編集王』という本なのだ。
対談の後半、オカルトプロデューサーという特異な仕事を俯瞰するひと言が矢追氏の口から出た。
「あまり考えてはいけません。“下手な考え休むに似たり”というのはとてもいいことわざですよ。自分ごときの、大したことのない脳でものを考えたって無駄です。自分は人並みに賢いといくら思っていても、はたから見れば大したことはないんです。そういう奴が何かをひねり出したら企画になるかといえば、そんなことはない。だから僕は、企画することは最初から諦めているわけです。だからこそ、ただ、現場へ行くんです」
オカルトという特異な対象に限らず、すべての人に通じる「自分の人生をプロデュースする言葉」だろう。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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