プラズマで生命を活性化! 農薬不要で成長2倍のプラズマ農法から奇跡のプラズマ治療まで

文=久野友萬

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    「プラズマ」と聞いて反射的にプラズマ兵器だ、HAARPだ、闇の勢力だ――と連想してしまうのは、オカルト愛好家の悪い癖でもある。そもそも、物質の三態と呼ばれる固体・液体・気体に対し、プラズマは第四の状態と呼ばれ、その性質には依然として未知の部分が多い。

    松茸が山盛りにとれる高電圧通電

     謎多きプラズマを農業に利用すると、農薬は要らなくなるわ、植物の成長は異常に早まるわ、収穫した作物が腐らなくなるわ、いいことだらけだという。

     プラズマ農法と聞くと、なにやら超高度なテクノロジーのような気がするが、この場合は要するに雷のことである。雷もプラズマの一種なのだ。

     雷のことを「稲妻」と呼ぶように、雷と農作物の関係は経験上知られていた。雷がイレギュラーに起こす現象を人工的に発生させ、高電圧で空中放電を起こすことで、空気中の窒素を植物が利用できる形に固定して肥料にしたり、有害菌の殺菌のほか、種子や胞子を刺激して成長まで促す。

     プラズマ農法と呼ばれる以前は「パルス電界刺激」や「静電刺激」と呼ばれていた。たとえば、椎茸の原木に高電圧をかける。電気が流れることで菌糸が傷つき、それがキノコの成長促進となる。

     圧倒的にキノコが大量に大きく育つので、当初はキノコ革命だと騒がれたが、大量のキノコが収穫できると市場価格は下がってしまう。これでは商売にならないとお蔵入りになった。じゃあ稀少キノコの松茸はどうだ? となったが、松茸の場合、人工栽培ができないので山の中まで放電装置を運ばなくてはならない。バッテリーの問題で運用効率が悪く、実用化に至らなかった。商売は難しいのだ。

    上は比較対象用のシイタケの原木。下は5万ボルトを50回通電した原木。下の原木には巨大なキノコが育っているが、上はほとんど生えていない。
    画像引用:「農水食分野での高電圧・プラズマ利用」(表面と真空Vol. 62, No. 6, pp. 363?368, 2019)

    肥料も要らなきゃ農薬も要らない?

     現在、高電圧からより扱いやすい低温プラズマの利用に代わり、現実的に利用できる技術として研究が進んでいる。

     まず、プラズマ処理水。作物全体にプラズマを照射するのは面倒なうえに装置も大型になる。そこで水にプラズマを照射してプラズマ処理水とし、農薬として使おうというのだ。水なら撒くだけで済むが、そんな都合のいいことができるのかといえば、できるそうだ。

     名古屋大学の研究によれば、まず水の中にトリプトファンというアミノ酸を混ぜておく。そこにプラズマを照射すると大量の活性酸素が発生、トリプトファンと結合する。

     トリプトファンは大腸菌(植物には有害)が好んで食べるが、活性酸素付きのトリプロファンは大腸菌にとっては猛毒だ。大腸菌は殺菌され、殺菌水として利用できるのだ。

    プラズマで水を殺菌しれば農薬がいらなくなるという。
    画像引用:「プラズマ照射で農薬を使用せず栽培溶液を”その場殺菌” ~低環境負荷技術を通じた食料安全保障への貢献に期待~」(名古屋大学リリース)

     トリプトファンを添加しなくても、そもそもプラズマ処理水中で発生する活性酸素には強力な殺菌効果があり、カビや藻の除去が可能だ。

     プラズマが発生する際、電極に使われる金属がナノ粒子(非常に小さい粒子)となって四散することがわかった。プラズマ処理水には、この金属粒子が含まれるため、銀や酸化チタンのような殺菌力のある金属を電極に使えば、さらに強力な殺菌水ができ上がる。(※1)

     また、雷で空中の窒素が固定され、窒素酸化物として天然の肥料ができる工程と同じことがプラズマ処理水でも起きる。プラズマによって亜硝酸が生成され、液肥として利用できるのだ。

     このようなプラズマ処理水は、漁業でも使えるのではないかと研究が進んでいる。抗菌剤を使わず、魚に負担のない形で水を滅菌できるからだ。特に陸上養殖のような完全に閉鎖された環境で養殖を行う場合、抗生物質を使わずに魚を育成できるため、経費面も消費者の健康面でもメリットが大きい。

     水槽に空気を送り込むエアレーション装置にプラズマ発生装置を取り付け、ティラピア(白身の淡水魚)の養殖に使ったところ、魚体がおよそ3割も大きくなった(※2)。これは活性酸素の働きもあるが、プラズマにより血管を膨張する一酸化窒素が発生し、血流が良くなったためではないかという。なんであれ、電気を流すだけで魚が病気にならずに大きく育つなら、願ったりかなったりだろう。

    ※2「プラズマによる養殖魚の成長促進」(2018年 応用物理学会)

    ビームサーベルも作れる!?

    まさかのガンダム! プラズマ農法はスペースコロニー時代の農業なのだ。
    画像引用:「ビーム・サーベル~プラズマ農業プロジェクト」プロジェクト紹介動画

     バンダイナムコグループが進めている「ガンダムオープンイノベーション」。ガンダムで想像された科学技術を現実に応用しようというもので、ビームサーベルのプラズマ技術に着目したのが「ビーム・サーベル~プラズマ農業プロジェクト」だ。

     農業でも漁業でも、プラズマを利用するには閉鎖環境が適している。植物工場や陸上養殖の先にあるのは宇宙、つまり宇宙ステーションや惑星上の基地での食料生産だ。ガンダムの舞台は密閉された宇宙の巨大植民都市、スペースコロニーであり、恐らくは農業や漁業にプラズマが利用されているのでは? という夢ある話なのである。

     さらに、プラズマを医療に使う研究も始まっている。プラズマ処理水の殺菌力は消毒薬並みでありながら、皮膚がかぶれるなどのマイナスの影響がない。

     プラズマをがん治療に使う研究も進んでいる。がん細胞は正常な細胞と違って、異常な回数の分裂を繰り返し、腫瘍を作る。正常な細胞は分裂する回数がおよそ決まっているが、がん細胞にはそのリミッターがない。事実上、がん細胞は不死であり、栄養がある限り、分裂を続ける。

     ところがプラズマを照射すると、なぜかがん細胞の分裂が止まり、死に始めるのだ。プラズマの熱で焼き切れたり、壊死したわけではなく、正常な細胞のように自死する。

     怪我の治療にもプラズマは活躍している。プラズマの照射で殺菌と損傷した細胞の自死が早まり、傷が早く治るのだ。

     プラズマの効果を知ると、プラズマが生命の本質に何か関係しているのでは? という気がしてくる。大抵の現象にはいい面と悪い面があるものだが、低温プラズマに関してはいい面ばかりだからだ。

     プラズマと生命の関係は、まだ研究が始まったばかり。化学肥料を使わない無農薬のプラズマ野菜や、抗生物質を与えていないプラズママグロが食卓に並ぶのは、まだ少し先になりそうだ。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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