別府に実在した鬼・件・鵺・人魚のミイラ写真に戦慄! 八幡地獄「怪物館」の絵葉書コレクション

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    かつて別府に存在した鬼のミイラ

    ――今回は「妖怪の写真絵葉書」がテーマです。ずいぶんマニアックですね。

    藤井慎二(以下、藤井)  古い絵葉書というのは、市場に驚くほどたくさん出回っており、実は日本全国にコレクターがいるくらい人気があります。福岡から来店されたお客様によると、絵葉書の交換会まで行われているのだとか。なかでも、鬼や人魚など不思議な生き物や、妖怪の絵葉書は、レアなのでマニア垂涎の品物です。

    ――そうだったのですね。でも、インターネットどころかテレビやラジオもない時代の絵葉書は、観光客が友人や家族に彼らが知らなかった世界を紹介するための重要な媒体(メディア)の役割を果たしていました。

    藤井  関東大震災で被災した人々や街の写真も絵葉書になるくらいですからね。ゲンシシャのある別府の話ですと、別府は地獄めぐりで有名ですが、かつては「八幡地獄(はちまんじごく)」という名所がありました。

    ――現在、地獄めぐりで有名な地獄組合に加入している地獄は7つですが、戦前までは噴泉池がいくつもあって、地獄もたくさんあったらしいですね。

    藤井  今回紹介したいのはその八幡地獄に併設されていた「怪物館」という、見世物小屋のような観光施設のお土産用の絵葉書。これは鬼の展示物の写真です。

    ――鬼? なんだか、ペラペラの人間みたいですね。

    藤井  この怪物館の中でもっとも有名なのが鬼関連の展示物で、「鬼の骨」とされています。高さが3.6メートルくらいあったようで、それなりに大きい鬼の骨だったみたいですよ。

    ――にわかには信じ難いですが、そもそも怪物館は昭和30年代に閉鎖されたキワモノ施設だったようですね。湧き上がる噴泉に便乗したというか……。

    藤井  やはり「地獄巡りには鬼が付きもの」ということになったのでしょう。

    ――実際、今の別府の地獄には、ワニがいても、鬼はいませんからね。

    件(くだん)、鵺(ぬえ)、人魚… 謎のミイラたち

    藤井  ほかにも、この施設のお土産には、19世紀前頃から日本各地で言い伝えられている予言獣の「件」や、キメラのような姿をしている謎の妖怪「鵺」の剥製の写真もあります。「件」は豊凶や疫病の流行などを予言する妖怪です。

    件(くだん)の絵葉書

    ――件は人間と牛が合体した妖怪、鵺はサルの顔にタヌキの胴体、トラの手足、蛇の尻尾を持つ妖怪ですよね。今も得体の知れない物事を「鵺のような」とは言いますが、それにしたって、別府に妖怪集まりすぎではないでしょうか? 呪われた人もたくさんいそうです。

    鵺(ぬえ)の絵葉書

    藤井  種明かしをすると、別府にはこのような妖怪や謎の生き物のミイラや剥製を作る人物がいたらしいです。

    ――すごい! 『ゴールデンカムイ』(集英社)の江渡貝弥作のようですね! 別府に金塊は眠っていませんか?

    藤井  古くからある遊園地「別府ラクテンチ」の場所にはかつて金山がありました。その話は別の機会にお話するとして……。ほかにも、展示されていた「人魚のミイラ」の写真ならあります。

    人魚の絵葉書

    ――なんだか思っていた人魚と違う……。上半身と下半身の境目が気になっていたのに、これだとサルのミイラみたいです。

    藤井  お客さんからもよく言われます。やはり、みなさんディズニー映画の『リトル・マーメイド』をイメージされてしまいますよね。

    ――もはや、昨年物議を醸した実写版『リトル・マーメイド』とは完全に別次元の姿ですね。

    ほかにも河童(かっぱ)の絵葉書も存在する

    藤井  ちなみに、八幡地獄があった場所は現在、地熱発電所になっています。八幡地獄が閉鎖され、怪物館もなくなったタイミングで、こうした剥製やミイラなどの展示物は焼却処分されたともいわれています。鬼の展示物などは東北に移されたという説もあるようですが、真相は闇の中です。

    ――「焼却処分」というのも、また怪しさに拍車をかけますね。

    ~つづく~

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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