身体改造の実践者・ケロッピー前田が語る人類サイボーグ化の歴史と未来

取材・文=本間秀明

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    日本の身体改造シーンをリードするケロッピー前田が語る最前線! 衝撃のロングインタビュー前編。

     パンデミックを経て、テクノロジーの進歩が加速している。生成型人工知能ChatGPTの登場でAI(人工知能)が人類を追い越す「シンギュラリティ」の到来が現実味を帯びてきた。それに対抗するように人類とAIを融合しようという野心的な挑戦もある。いったい世界では何が起こっているのか?

     そんな最先端の現場をカウンターカルチャー(既成の価値観に対抗するオルタナティブな文化)の視点から直接取材し、想像を超えるリアリティを見せてくれているのが身体改造ジャーナリストのケロッピー前田氏だ。TBS『クレイジージャーニー』でもその活動は取り上げられ大きな話題となっている。前編では、未来の人類を先取りする身体改造の最前線について聞いた。

    テスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」のモックとケロッピー前田氏

    サイボーグ願望へとつながる「モダン・プリミティブズ」

    ――TBS『クレイジージャーニー』で紹介された身体改造の世界は衝撃的でした。その過激さや痛々しさに驚いた人は多かったと思うのですが、そもそも身体改造とはどこから始まったのでしょうか?

    ケロッピー  身体改造とは、タトゥー、ピアスを含む過激な身体の加工装飾の総称です。英語では「ボディモディフィケーション(body modification)」と呼ばれています。臓器移植を含む「人体改造」やボディビルで使われる「肉体改造」と区別するために「身体改造」と訳しています。日本を含め、世界的な流行は90年代に始まります。その大きなきっかけと言われているのは、1989年にアメリカで出版された『モダン・プリミティブズ』という本です。

    身体改造流行のきっかけとなった『モダン・プリミティブズ』

    ――「モダン・プリミティブズ」とはどういう意味ですか?

    ケロッピー  『モダン・プリミティブズ』とは、古くから世界各地に通過儀礼などとして残るタトゥーやピアスといった痛みの伴う行為を現代に取り戻さなければならないという文化運動です。一般に身体改造というと、過激なファッションや変態趣味なものと思われるかもしれませんが、歴史的文化的な背景があって、それが60年代以降のカウンターカルチャー隆盛の流れのなかで、再発見されてきたわけです。

     さらにいうと、「モダン・プリミティブズ」というアイデアは、80年代にSFの新しいジャンルとしてもてはやされた「サイバーパンク」と同時期に登場しました。発祥は違いますが、「サイバーパンク」も「モダン・プリミティブズ」もその主張は似ています。つまり、人工知能やコンピュータなどのテクノロジーが高度に進歩した時代にプリミティブ(原始的なもの)を取り戻すことが必要であるというわけです。

    ――SF映画の『ブレードランナー』や『マトリックス』に描かれてきた近未来ならよくわかります。フィクションの世界のことだと思っていたことがいきなりリアルな現実として迫っているのが、まさに今ということなんですね。

    ケロッピー  そうです。正直、『モダン・プリミティブズ』が出版された段階では「サイボーグになろう」というところまで踏み込んでいたわけではありません。でも、タトゥーやピアスから身体改造を始めて、現代にプリミティブを求めてきた人たちと、SFやテクノロジーの側からもっとパンク(野蛮)が必要だと思った人たちが想像した未来のヴィジョンは重なるんです。

     ちょっと古い話になりますが、1989年にベルリンの壁が崩壊して、米ソ冷戦が終わって世の中が激変した時期に、次の時代を探していた人たちが「おっ、これだ!」となったわけです。ですから、いろんな方向から入ってきた人たちが同じ未来のヴィジョンに行き着いたというのが、90年代カルチャーがおもしろいところです。そして、20年のときを経て、そのサイバーパンクが現実になるんです。

    ――世界と日本だと足並みはそろっていたんですか?

    ケロッピー  ずれはあります。日本には、『モダン・プリミティブズ』が引き起こしたタトゥーやピアスの流行は遅れて入ってきました。とはいえ、一方で伝統的な刺青があるし、どちらかというと経済力にものをいわせて、モダンをちゃんと通らないでプリミティブからポストモダンに一足飛びに移行してしまいました。

     サイバーパンクを代表するSF作家ウィリアム・ギブスンは千葉市を舞台に『ニューロマンサー』を書いています。彼は、80年代の日本をイマジネーションの源にしてサイバーパンクの未来世界を生み出したわけです。

    ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』

     たとえば、スプリットタン(蛇のように舌を二つに裂く身体改造)をテーマにした金原ひとみの小説『蛇にピアス』が2004年に芥川賞を取ったり、山本英夫の『殺し屋1』や『ホムンクルス』を通じて、過激な身体改造や頭蓋骨に穴を開けるトレパネーションなどが広く知られるようになるのも、世界的に見れば特殊な状況です。特に金原が芥川賞を受賞したときには、朝日新聞の一面にスプリットタンの説明が載りました。日本の実践者が特に多いというわけではありませんが、広く世間に知られているという意味では、日本は世界よりも先駆けてきました。

    タトゥーやピアス、身体改造が流行している理由

    ――痛みが伴う行為なのに、人はなぜ身体改造をやりたいと思うのでしょうか? また、なぜ身体改造する人たちが世界的に増えているのでしょうか?

    ケロッピー  現代人は「痛み」を過度に恐れている傾向がありますよね。たとえば、フックを身体に貫通して吊り下げるボディサスペンションという行為があります。とんでもなく痛そうに見えるかもしれませんが、フックを刺すときは痛いですが、吊り下げられているときには身体に負荷はかかりますが、いわゆる痛みはありません。

     実践者たちは痛いのが好きだからやっているわけじゃなく、身体改造という「体験」を通じて、自分の身体を再発見しているわけです。どこまで意識しているかは人によりますけど、とにかく世界の多くの人たちが身体改造がとても面白いカルチャーであることに気がついたことが流行の理由です。見た目も格好いいですからね。

    ――確かにピアスやタトゥーは自己表現の手段として世界的に広く定着していますね。

    ケロッピー  アメリカで一般的にタトゥーが流行ったのは、60年代にミュージシャンのジャニス・ジョプリンがタトゥーを入れたことから始まったと言われています。またピアスが流行したのは1994年にマドンナがおへそにピアスをしたからです。有名なミュージシャンなどがタトゥーやピアスをすることで流行を後押ししてますよね。また1991年には「アイスマン」と呼ばれる5300年前のミイラが偶然発見されました。アイスマンは人類最古級のミイラで全身に61ヶ所のタトゥーをしていたんです。そのことからタトゥーの始まりはかなり古い時代にまで遡ると考えられるようになったし、人類最古のカルチャーとしてもタトゥーは広く見直されました。そういう相乗効果もあって、タトゥーやピアスは世界に受け入れられていったわけです。

    小さな電子機器を体内に埋め込むだけでサイボーグ化?

    ――ここまでお話しいただいたタトゥーやピアスといった身体改造は、マイクロチップの体内埋め込みなど、サイボーグ化というべき先進的な身体改造とどうつながってくるのでしょうか?

    ケロッピー  90年代半ばのインターネット登場以降、実験的で過激な身体改造はネットがけん引する形で広まってきました。そのけん引役であったBMEというホームページが主宰して、1999年から3年連続で身体改造の世界大会「モドゥコン」が開催されました。世界中から身体改造をする人たちが集まって、「こんなにすごい改造をしているぞ」と披露する大会です。

     実はこの大会で、柔らかい素材のシリコンインプラントが新しく登場しました。その後、シリコンでコーティングすることで磁石や電子機器の体内埋め込みにつながっていきます。世界大会の記録『モドゥコン・ブック』は主宰者のシャノン・ララットが著したものを僕が翻訳して自費出版しています。昨年リプリントしましたが、そちらを見れば、マイクロチップもモドゥコンから派生してきたことがわかります。

    シャノン・ララット著/ケロッピー前田訳『モドゥコン・ブック 増補完全版』
    中野タコシェなどで販売 ※一般書店やアマゾンでの販売なし

    ――タトゥーやピアスのような身体改造は見た目を変えるものですが、マイクロチップや電子機器を埋め込みような機能性を求めるものも同じ流れから派生したのですね。

    ケロッピー  そうです。身体改造の歴史を振り返るといろいろな面白い話があります。アメリカで冷戦時代にCIAが秘密裏に行っていたMKウルトラ計画というものがあります。マインドコントロールなどを目的に動物の脳に電極を刺して電気刺激による洗脳などが研究されていたと言われています。身体改造実践者たちも最初にインプラントの技術を開発する際にはMKウルトラの時代の資料を調べたそうです。皮膚から一部が露出したトランスダーマルインプラントがあって、そこにシリコンインプラントが登場しました。電子機器をシリコンでコーティングして、端子を皮膚から露出すれば、電力の供給もできるわけです。

     最終的には体内に機械を埋め込んでサイボーグになりたいという願望を持っている人たちもいます。それも機械のカラダが欲しいというような大袈裟なものじゃなくて、小さな機器を埋め込むだけで人間をバージョンアップできるようなものです。

    磁石を埋め込み「わたしもサイボーグよ」と自慢するビンキー

    ――身体改造実践者のなかに「サイボーグになりたい」という願望を持っている人たちもいるんですね。

    ケロッピー  さっき話した身体改造の世界大会「モドゥコン」が行われたのも20年前のこと。過激な身体改造の世界は「モダン・プリミティブズ」に始まる身体改造カルチャーを毎年のように更新してきて、マイクロチップや磁石、電子機器などを体内に埋め込む「ボディハッキング」と呼ばれるジャンルまで生み出しました。

     正直、利便性だけを求めるなら、マイクロチップもクレジットカードや電車に乗れるといった機能が使えるようになるまでは広くは普及しないでしょう。それでも率先して新しい身体改造に挑戦し、最新のマイクロチップを自分の身体で試してみたいというのも身体改造実践者に共通する願望のひとつです。だから、今は「ただ光るだけ」の機能しかなくても、それはひとつの「サイボーグ宣言」として自分が改造人間である証になるんです。

    光るのはサイボーグ&改造人間の証、ケロッピー氏の腕には3色LEDインプラント

     そう言って、ケロッピー氏は自分の手首に埋め込んだ3色のLEDインプラントに電磁コイルを当てて光らせてくれた。身体改造カルチャーは日本ではごく一部の人たちの変わった趣味嗜好に過ぎないと考えられがちだが、五千年前のミイラ、アイスマンがタトゥーをしていた事実やSF映画のように体内に機械を埋め込める時代が始まっていることを聞くと、単なるファッションを超え、人工知能の時代を生き抜く未来の人類の姿にもつながってくる。

     後編では、今年5月にFDAの承認を得て人体実験を開始している、脳とコンピュイータを接続するニューラリンクの最新事情や人工知能が人類を追い越したのちのアフターシンギュラリティの恐怖についても聞いた。

    ~後編に続く~

    ケロッピー前田

    世界のカウンターカルチャーを現場レポート、身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動はTBS系人気番組『クレイジージャーニー』で取り上げられ話題となる。主な著書に『70年代オカルト』(光文社新書)、『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)、『縄文時代にタトゥーはあったのか』(国書刊行会)など。

    本間秀明

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