霊的存在との関わりをビジュアルで辿る「霊界の書 世界の幽霊・怪奇譚・超常現象」/ムー民のためのブックガイド

文=星野太朗

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    霊界の書 世界の幽霊・怪奇譚・超常現象

    DK社 編/黒川正剛 監修

    世界各地における霊的存在との関わりを珍しく美しいイラストや図版で辿るビジュアル読本

     本書によれば、人類は「死者の遺体を敬ったり、死後にもその人の本質の一部が現世に残ると信じる点が、生物種として特異である」。そんな人類は有史以来、霊的存在や超自然的な現象と実にさまざまな形で関わりを持ちつづけてきた。本書は副題に「世界の幽霊・怪奇譚・超常現象」とある通り、そんな人類の特異な信念体系・世界認識の有り様を、総合的に紹介しつくす大著である。

     現生人類の出現以前(約43万年前!)に遡る埋葬儀礼に端を発すると思われる祖先崇拝から論は始まり、古代から中世、近世、近代を経て現代に至る、世界各地における多様な文化、人種、宗教、信仰に属する人々と霊的存在との関わり方が、文字通り網羅されており、その質と量には、ただただ圧倒されるしかない。とくに、最終章で、サイバースペースから登場した新しいタイプの霊まで採り上げられているところには、今っぽさを痛感した。
     ネット上にありとあらゆる画像があふれかえっている現在でも、他所ではあまり見かけないような、珍しく美しい図版がふんだんに収録されているのも、本書の大きな魅力。それらを、ただ眺めているだけでも、知的好奇心が刺激され、楽しめるように構成されている。

     編者としてクレジットされている「DK社」とは、 Dorling KindersleyLimitedというイギリスの多国籍出版社で、各国に支部を持ち、その出版物は全世界の62の言語で翻訳出版されているという。
     2021年9月号の本欄でご紹介した『魔術の書』(グラフィック社)もまた同社の作品である。
     同書も含め、これほど膨大浩瀚な書物を、これほどの良心的な価格で提供することが可能となったのも、このようなスケールメリットの賜物であろう。その意味でも、まさにお買い得といえる一冊である。

     実際には本書は、ハートフォードシャー大学所属で魔女や民間医療を専門とする碩学オーウェン・デイビス教授を監修に据え、歴史学者や元外交官など、総勢9名におよぶ錚々たる専門家集団が執筆に当たっており、その内容は極めて正確、かつ学術的。日本語版監修者の黒川正剛氏は大成学院大学教授で、専門は宗教学・西洋史。『呪術の人類学』(人文書院)、『魔女とメランコリー』(新評論)などの著書がある。
     霊界とその歴史に関する百科全書として、本誌読者のみならず、広く人間の精神活動に関心を持つ者なら、必ず書架に備えておくべき基本文献である。

    和田侑子・小林豊子・涌井希美 訳/グラフィック社/4400円(税込)

    (月刊ムー 2026年01月号掲載)

    星野太朗

    書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。

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