<体験談>「寿命を当てるソフト」で余命的中した恐怖

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 ある日のことです。職場の部下たちに生年月日を聞いてまわる女性のA課長の姿がありました。
 A課長の話によると、生年月日を打ちこむことで、その人の寿命を当てることができるというソフトがあるらしいのです。
 複数回、大学浪人の経験のある私は同期より年上のため、自分の年齢を隠していました。社内で年齢がばれることは、当時の私にとってとても恥ずかしいことだったからです。
 そんなことなど知るはずもないA課長から、「あなたの生年月日を教えて」と、肩をたたかれました。
 無視するわけにもいかず、私は生まれ年を3年下げるとともに、生まれた月日を1週間ずらして回答。
 彼女は嬉しそうに寿命を当てることができるという例のソフトを起動しました。
 そして、「あのね、あなたは50ン歳で死ぬらしいよ」と、笑っていうではありませんか! よくもまあ、そんなことをみなの前でいえるものです。そのとき私は本当に腹が立ちました。

 50ン歳といえば、あと4年しかありません。
 私は結婚が遅かったため、子供はまだ成人していません。妻と子供が喪服を着て、私の棺を前に泣きふす光景が浮かんでしまいました。
 出世頭のエリートとはいえ、本当に性格の悪い課長です。
 他の部下たちにもお鉢がまわります。みな嫌がりながらも聞かれればいわないわけにはいかず、生年月日を答えていました。
 結果、一番寿命の長い人で86歳、一番寿命が短かったのが50ン歳の私でした。

 しばらくしてA課長の顔色が少し変わったように感じました。それは、A課長が自分の生年月日をソフトに入力したときのことです。
 隣でいっしょにソフトを覗いていた係長の話によると、A課長の寿命が43歳と表示されたそうです。
 A課長が青くなるのも頷けます。なぜならA課長が43歳になるのは、わずか再来年のことなのですから。

 いつしかときがたち、そんなくだらない職場での出来事をみなが忘れかけていたときのことです。
 A課長が休職するという噂が立ちました。
 人事課長から、「A課長は体調不良のため、しばらくお休みします。代理の役職者と業務の割りふりは、またあとで連絡します」と、アナウンスがありました。

 それから1年後のこと、会社の掲示板にA課長の訃報の掲示が貼りだされました。
 どうやらA課長は、休職中、がんの治療をしていたらしいです。
 訃報の掲示を見て「アッ!」と声を上げた人がいました。
「あの余命占いソフトは本当だったんだ!!」と叫んだのは、A課長の結果を隣で覗いていた係長です。それを聞いてゾッとしました。

 私は現在、50ン歳を越えましたが、元気に生きながらえています。あのとき本当の生年月日を例のソフトに入力していたら、寿命はいくつだったのでしょう。とはいえそんなことは知りたくもありません。寿命など知らぬが仏です。

◆高橋直人/東京都板橋区

(本投稿は月刊『ムー』2025年12月号より転載したものです)

〈編集部より〉
どんなソフトなのか、気になってしまいます。知りたくないですね。

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