地球外文明の検知は実質的に不可能? 最新研究が示す“異星人の進化スピード”と「コミュニケーションの地平」

文=仲田しんじ

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    人類の歴史を通じて執拗に続けられてきた宇宙探査にもかかわららず、地球外文明の痕跡が検知できていないのはなぜか。すでに彼らは、われわれが検知できないレベルに進化してしまっているのかもしれない――。

    地球外の先進文明は検知不可能!?

     この広い宇宙で我々は完全に孤独なのか――。

     物理学者のエンリコ・フェルミがかつて地球外文明が存在する可能性はきわめて高いにもかかわらず、そのような文明との接触が皆無である(と思われる)ことの矛盾を指摘し、この不整合は「フェルミのパラドックス」と呼ばれるようになった。

     地球という惑星にわれわれ人類が存在しているという紛れもない事実に基づき、無数にあるほかの惑星のいずれかにも知的文明が存在するはずだと考えるのは至極真っ当であるように思える。

     これまでに6000以上の太陽系外惑星が発見されており、宇宙には生物の生息が可能な惑星が無数に存在すると考えられている。

     しかし地球外文明の痕跡を探せども探せども、今のところ公式発見には至っていない。人類は宇宙探査においてなんらかの根本的な間違いを犯しているのだろうか。ひょっとすると人類はサバンナの野生動物のように地球という“動物園”に閉じ込められているのか? あるいは、文明は宇宙進出できる前に自滅してしまう運命なのか?

    Pierluigi D’AmelioによるPixabayからの画像

     いずれにしても現時点では確たることはなにも言えないのだが、我が身を顧みるとヒントが見つかるのかもしれない。今日の社会ではAI(人工知能)が一大ブームとなっているが、地球外文明においても発展のどこかのタイミングでAIが開発され、普及が進むはずだと考えてみるのはあながち見当違いでもないだろう。

     英マンチェスター大学のマイケル・ギャレット氏が今年9月に学術サイト「arXiv」で発表した研究では、高度に発達した地球外文明はわれわれの認識と検出可能な段階を急速に超えて進化している可能性があると主張する。つまり、地球外の先進文明は現在のわれわれの技術では検知不可能なレベルに発達した存在であるというのだ。

     科学メディア「Science Alert」によれば、このアイデアは天文学者で作家の故カール・セーガン(1934〜1996)の考察を再検証したことで生まれたものであるという。1970年代にセーガンは地球外知的生命体探査におけるいくつかの課題を検討していたが、その中で彼が「コミュニケーションの地平(communication horizon)」と呼んだ概念が今回、ギャレット氏によって再検証された。

     地球外文明が進歩するにつれて、その技術は人類が検知できないほど高度化し、コミュニケーションの範囲を超えてしまうかもしれないのだ。

    カール・セーガン氏 画像は「Wikipedia」より

    文明の痕跡を捕捉できる期間はわずか数十年

     現状、100光年離れた文明からの強力な電波信号は検知できるが、もしも ニュートリノを用いた通信を行っている場合は、われわれの技術では把握できなくなる。

     また、もしも光より速く通信することを可能にする物理学が存在するとしたら、われわれにはお手上げで探究は絶望的になる。

     セーガンは人類の文明が過去に進歩してきた方法に基づいて、文明が私たちの観測限界を超えて進歩するには約1000年かかるだろうと計算した。しかし、その期間はAIの登場によって急激に短縮しているという。

     1970年代の時点で今日の2025年の世の中でこれほどAIが普及すると予見していた者は僅かであったはずだが、AIは今やわれわれの日常生活の一部となっており、このままAIが技術的に進歩していけば、近いうちにある種の人工超知能(Artificial Super Intelligence、ASI)が実現される可能性もじゅうぶんにある。

    Iris,Helen,silvyによるPixabayからの画像

     ギャレット氏は高度に発達した、おそらくはポスト生物学的文明は急速な技術革新を遂げ、検出可能な段階がわずか数十年にまで短縮される――われわれの現在の技術レベルと重なるコミュニケーションの時間的範囲が劇的に狭まる――ことを単純なモデルで示している。文明の発展がまだ初期にある数十年のタイミングを逃すと、われわれにはもはや検知できないレベルにまで進歩してしまうのだ。

     宇宙は決して「大いなる沈黙」に包まれているわけではなく、高度な文明は豊富に存在し、長らく繁栄しているかもしれないが、現在の人類には実質的に検出できない可能性がある、ということになる。

     したがって、無線および光領域における狭帯域通信信号の探索だけで地球外知的生命体を発見できる可能性は極めて低く、そもそも大前提として科学技術と文明全体の進化を加速させる必要があるとギャレット氏は提言する。

     具体的には、多次元にわたる異常検知技術、人工知能の超高度化と予測モデリングや再帰アルゴリズムの最適化などが、人類の認知的枠組みを超越した地球外文明の痕跡を発見するために不可欠であるということだ。

    「フェルミのパラドックス」の答えが出る日は訪れるのだろうか。高度な地球外文明を検知し、接触できる可能性は今後の科学技術やAIの発展にかかっているのかもしれない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「UoM Astrosoc」より

    【参考】
    https://www.sciencealert.com/alien-ai-might-turn-advanced-civilizations-invisible-in-a-cosmic-blink

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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