ウクライナ「300年封印されていた部屋」をめぐるミステリー! 未知の地下通路発見で伝説が史実に!?
ウクライナの古城で300年間封印されていた部屋の扉が開かれた――。皮肉にもこの部屋の存在は、今も戦火の収まらないウクライナの“戦争の歴史”を物語っている。
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中世ヨーロッパの謎の銘刀「ウルフバート」とは――。その類まれな強靭さと鋭い切れ味は時代を超越しており、“オーパーツ”なのではないかとの疑いを持たれるほどだ。
歴史的な刀剣はコレクターズアイテムにもなっているが、世界の刀剣愛好家がきわめて高い価値を認めているアイテムの1つが「ウルフバート(Ulfberht)」だ。9世紀から11世紀にかけてのヴァイキング時代に出現した銘刀だが、多くの謎に包まれている。
ヴァイキングの伝承によると、ウルフバートは純粋な鋼で作られた傑作であり、選ばれた少数の戦士のみに帯刀が許されていたという。剣に刻まれたウルフバートの銘がなにを意味しているのか、当時の文献にも記録が残されていない。刀鍛冶の名前であった可能性もあれば、剣が作られた場所の地名だったのかもしれない。あるいは“品質保証”のマークだとする説もある。また、所有者に神の加護や祝福をもたらしたのではないかと指摘する歴史家や研究者もいる。

宗教的信仰が大きな役割を果たしていたヴァイキング社会では、象徴や碑文の力は大きな影響力を持っていた。並外れた品質の武器であったウルフバートは、刀身に謎めいた「+VLFBERHT+」文字列が刻まれたことで、さらに特別なものとなっていた可能性がある。この銘文によって、ウルフバートの神聖な性質がさらに強化されたのかもしれない。
また、ウルフバートに刻まれた十字架はローマ・カトリック教会との繋がりを示しているとの説もある。中世ヨーロッパでは教会とフランク王国が協力関係を構築し、教会は武器の主要な生産者かつ商人でもあった。名前の前にギリシャ十字を付ける慣習は司教と修道院長にのみ用いられていたため、 「+VLFBERHT+」という銘は司教、修道院長、あるいは修道院の名前であった可能性もあるという。

ヨーロッパ全土で数千本のウルフバートが発見されているが、本物であることが証明されているのはわずか170本ほどだ。そのほとんどは川や川岸で発見されたか、ヨーロッパとスカンジナビアのバイキングの墓から出土したもので、錆と風化がかなり進んでいる。また、ウルフバートが200年以上にわたり作られたという事実は、これらが単一の職人によるものでははないことを示唆している。
これまでに詳しく調査された44本のウルフバートは、すべて「るつぼ鋼(crucible steel)」で作られていることがわかっている。
精錬された鉄は武器や防具の鍛造に用いられてきたが、鉄だけでは柔らかすぎて強力な武器を作ることができない。さらにこの時代の一般的な刀剣は炭素含有量が少なく、不純物やスラグ(鉱石から分離されずに残った非金属成分)を多く含んでおり、これが金属の強度を低下させていた。
今日では、金属を3000度以上に加熱することでスラグを除去し、より多くの炭素を添加することで、強固なスラグフリー鋼を実現しているが、この時代のヨーロッパの鍛冶屋はじゅうぶんに高温な火熱を得る手段がなかったため、スラグフリー鋼を作ることができなかった。
おそらくウルフバートの製造において鍛冶屋たちは、輸入品も含むさまざまな鉄鉱石を厳選してるつぼに入れ、その後、るつぼを密閉することできわめて高温まで加熱していた。浸炭と呼ばれるこの工程によって不純物が除去され、独特の模様が現れる高炭素鋼が生まれる。ウルフバートの剣にるつぼ鋼が使用されたことは、ヴァイキングの冶金技術に対する高度な理解と、並外れた品質と性能をもつ刀剣作りへの飽くなき尽力を象徴しているのだ。
研究の結果、ウルフバートの鋼は同時代のヨーロッパの鋼の平均よりも最大3倍の炭素を含有していることが判明している。これは、ウルフバートがヨーロッパにおいて少なくとも1000年は時代を先取りしていたことを示しているという。ウルフバートが時代を逸脱した“オーパーツ”なのかと疑われる所以である。

では、ヴァイキングはどのようにしてこの高度な技術を手に入れたのか? 彼らは勇敢な戦士であるのみならず、高度な技術をもつ商人として、アメリカ大陸やアジアにも進出していたと考えられている。
るつぼ鋼は一般的にインドとスリランカが生産の中心地とされており、実は紀元前300年にさかのぼる歴史をもつ。
さらに、ウルフバートが作られていた時代を含む西暦9世紀から12世紀にかけては、トルクメニスタンのメルブやウズベキスタンのアフシケトをはじめ中央アジアが、るつぼ鋼の重要な生産中心地であったことが近年判明している。
西ヨーロッパを主戦場にしていたヴァイキングだが、その一方でアジアの文化に接触し、るつぼ鋼などの先進技術を導入したのだろうか。
バルト海のゴトランド島では、9世紀のイスラーム帝国のディレム銀貨が大量に出土していることから、ヴァイキングはバルト海とカスピ海、そしてペルシャ(現在のイラン)を結ぶヴォルガ交易路を積極的に活用していたと考えられる。
ヴォルガ交易路が開通して栄えた西暦800~1100年頃は、ウルフバートが使われていた時期とほぼ重なる。研究者たちはヴァイキングが毛皮などのスカンジナビアの商品と引き換えに、商人から高強度の鋼作りに必要な資材を入手していたと考えているようだ。ウルフバートに使用されている鋼は、やはり現在のイランから来たのかもしれない。
いずれにしても、ウルフバートにまつわる謎はまだ完全には解明されない。しかし、その銘刀の背後にある歴史と神秘性こそが刀剣愛好家の所有欲に火を着けているのだ。
【参考】
https://www.ancient-code.com/ulfberht-the-sword-made-with-technology-from-the-future/
https://www.reliks.com/ulfberht-sword/
https://vikingsvssamurai.com/one-step-closer-cracking-the-mystery-of-the-viking-blade-ulfberht/
仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji
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