アメリカ史上最恐の“幻の町”「アシュリー」の謎! 消えた住民から助けを求める電話も…!?/カンザス州ミステリー案内

文=宇佐和通

    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    のどかな田園都市の“知られざる側面“

     アメリカ合衆国の中央に位置するカンザス州は、「ハート・オブ・アメリカ(アメリカの心臓)」や「サンフラワー・ステート(ひまわりの州)」というニックネームもよく知られている。州名はネイティブ・アメリカンのカンサ族に由来し、先住民族の文化が今なお州内各地に息づいている。広大な大平原はアメリカを代表する農地である一方、州内最大都市のウィチタは「世界の飛行機製造の首都」と呼ばれるほど航空産業の一大拠点として発展している。

    Oz Museum 画像は「Visit Wamego」より引用

     著名な児童文学作家であるライマン・フランク・ボームの代表作『オズの魔法使い』のトリビュート施設であるオズ博物館は、ワミーゴという小さな町にありながらカンザス州で一番の観光名所となっている。いずれしても、のどかな田園都市というイメージが強いカンザス州なのだが、そういう土地だからこそ際立つ無気味な都市伝説が語り継がれている。

    恐怖の集団失踪

     州西部エリス郡に、アメリカ史上類を見ない不思議な集団失踪事件が発生したアシュリーという小さな町があった。

     事件の発端は、1952年8月8日のこと。この日、町の住民ガブリエル・ジョナサンが地元警察署に出向き、「アシュリー上空に黒い亀裂が現れた」という奇妙な話をした。これを皮切りに、多くの住民たちから「空が不自然に暗い」「朝になっても太陽が昇らない」「死んだはずの人が町を歩いている」など、常識では説明できない異変の報告が相次いだ。警察はパトカーを派遣したが、一本道を走っていたはずがなぜか出発地点に戻ってしまうという現象が繰り返され、やがてアシュリーは外部から完全に隔絶された状態となった。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

    8月12日、町に暮らす子ども217名が一斉に失踪した。錯乱状態に陥った多くの親たちが次々と警察へ押し寄せたが、外部から町に入ることが不可能な状態で、捜索は一向に進まなかった。その後も「空に巨大な炎が現れた」「夜なのに昼のように明るい」などの通報が相次いだが、同時期にアシュリーの外にいた人たちには、そのような光景はまったく確認できなかった。

     最後の通報は8月15日午後9時46分、エイプリル・フォスターという女性から寄せられた。彼女によれば「昨夜、死んだはずの人たちが帰ってきた」という。切羽詰まった口調で助けを求めていたが、その後、女性からの連絡は途絶えてしまった。

     そして8月17日午前3時28分、カンザス州一帯をマグニチュード7.9という巨大地震が襲った。アメリカ地質調査所にも記録が正式に残されている。普段、地震がほとんど起こらないカンザス州では異例の災害だ。震源はアシュリーの直下とされ、警察官たちは直ちに現地へと向かった。しかし、その眼前に広がっていたのは、全長900メートル、幅450メートル、深さに至っては計測不能の赤く焼けただれた巨大な地割れと、それによって寸断された道、そして街を丸呑みした直径1マイルの巨大な黒いクレーターだった。辺りには煙が立ち込め、建物の残骸も住民の遺体も、家具ひとつ残されていない。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     しかし地震の翌日、隣町ヘイズの警察署に1本の電話がかかってきたという。発信者はアシュリーの住人のサラ・オデルという少女だ。彼女は泣きながら警察官にこう訴えた。

    「なにかがおかしいの。ママもパパもいないの。みんな消えちゃった。お願い、助けて」

     それから3日間、警察にアシュリーの住人からの通報が相次いだのだが、通話の発信元を追跡しても場所を特定することができなかった。存在しない空間からの電話だったのだ。

     アシュリーでは地震の直前からさまざまな異変が起こっていたようだ。近隣の町に住む人々は、その後、数日間にわたってクレーター上空に赤白の光球が漂う光景を見たと証言している。また、ある者は夜道で不気味な人影を見たと語った。かろうじて人間であることはわかるものの、全体が異様に歪んでいたというのだ。「はるか遠くにアシュリーの町そのもののシルエットが見えた」と語る者もいた。しかし、近づこうとすると、その町は跡形もなく消えてしまったという。

     8月17日の地震発生後、結局アシュリーの住民679名が全員行方不明となり、カンザス州政府は12日後に捜索を断念した。

    二度目の地震で“完全抹消”

     しかし、ここで話は終わらない。なんとそれから数日後、8月30日に再び巨大地震が発生し、地割れが塞がったと報告されている。つまり、このタイミングでアシュリーの町は“初めから存在しなかったかのように”完全にこの世から消え去ってしまったのだ。

     二度目となる巨大地震の発生時、クレーターから突然巨大な黒煙が立ち上ったといわれている。煙は隣接する3つの郡から見えるほどの規模で、周辺は軍によって完全に封鎖された。州政府は天然ガスの自然発火と説明したが、カンザス州は地理的に天然ガスが埋蔵されているような場所ではない。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     やがて「アシュリーという町はもともと存在しなかった」というニュアンスの公式声明が発表される。地図からも名前が消され、町に関するありとあらゆる種類の記録が書き換えられ、他所で暮らすアシュリー住民の遺族に対して相当な金額の見舞金が支払われたといわれている。この見舞金に「他言無用」という意図が込められていたことはいうまでもないだろう。

     今となっては、アシュリーの存在を証明する写真も新聞記事も公式記録も一切存在しない。しかし、この町に関する噂はネット上のフォーラムや都市伝説サイトで語り継がれ、「アメリカ史上最恐の幻の町」と呼ばれているようだ。そもそもの発端は2010年代に発表されたネット怪談だったという解釈もあるが、政府による極秘実験に関する陰謀論も支持を受けているのが事実だ。

     実在した町が大地に飲み込まれ、歴史から抹消された——それが事実であれフィクションであれ、アシュリー消失伝説は今も語り継がれている。カンザス州西部のハイウェイを、すれ違う車もほとんどない深夜帯に車で走っていたら、突然ラジオから「わたし、まだここにいるよ……」という少女の声が聞こえたという怪談めいた話も登場するなど、都市伝説としての進化は今も続いているようだ。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

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