人類がネコを飼いはじめた“本当の理由”に戦慄! ネズミ駆除のためではなかった

文=仲田しんじ

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    ペットとしてイヌと並んでメジャーなネコだが、人間との親密な関係はいつごろからはじまったのか。新たな研究によると、人間社会がネコを飼うようになったのは案外最近であるという。

    ネコと人類、本当の関係

     今日のペットはほとんどが愛玩動物であるが、牧畜などのように人類は本来搾取の対象として動物を飼育してきた歴史がある。逆に言えば、何の利益も得られない動物を飼うはずはないのだ。

     飼いネコの起源を研究する研究者たちは、ネコは新石器時代の初期の農民に同行し、農業の導入とともにヨーロッパ中に広がった可能性が高いと長い間考えてきた。

     約1万年前に西アジア(中近東)の「肥沃な三日月地帯」で始まった農耕だが、収穫した穀物を倉庫で保管するようになると、農村コミュニティはネズミの被害に悩まされることになる。

     しかし、そこに救世主があらわれた。この時期に北上してきた北アフリカヤマネコがネズミを狩るようになり、人間とネコの間に相互利益関係が生まれ、最終的にはネコの家畜化へとつながったとこれまで考えられていた。

     しかし、意外にもこの説は現在、再検証されることになっている。

    StockSnapによるPixabayからの画像

    ネコの家畜化は古代エジプトで始まった

     英エクセター大学をはじめとする合同研究チームが今年4月に「bioRxiv」で発表した研究では、ネコの家畜化について少し異なるタイムラインが提示されている。同大学の考古学者で、論文の著者であるショーン・ドハティ博士は次のように語る。

    「イエネコの祖先である北アフリカヤマネコは、新石器時代に家畜化されたとよく言われています。私たちの研究は、入手可能な骨学的、遺伝学的、そして図像学的証拠を検証することで、この説に異議を唱えるものです。ネコの家畜化は、紀元前2千年紀から1千年紀頃のエジプトで始まったと考えられます」(ドハティ博士)

     研究チームは、206か所の遺跡で2416個の考古学的ネコ科動物の骨を分析。形態学的データと遺伝学的発見を参照することで、飼いネコはローマ帝国の拡張がピークを迎える前、紀元前1千年紀初期までにすでにヨーロッパに現れていたと結論づけた。

     紀元前4世紀から2世紀にかけて、ブリテン島で異なるネコのミトコンドリアハプログループが発見されており、鉄器時代にネコとの接触があったことが示唆された。その後、ローマ時代、古代末期、そしてヴァイキング時代にも波のようにネコの流入が起こった。また、これらのイエネコの原産地はチュニジアだと考えられるという。

     では、流入してきたネコが家畜化したのはネズミ駆除に活用されたからなのだろうか?

     研究チームは、ネズミ駆除がネコの家畜化に影響を与えた可能性は高いものの、宗教がより重要だった可能性があると主張している。古代エジプトにおいて、何百万匹ものネコが、ネコの女神であるバステト女神のための生贄として飼育されていたのである。

    「飼いネコとエジプトのバステト女神との結びつきは、紀元前1千年紀に頂点に達します。バステト女神に捧げられた寺院では、何百万匹ものネコのミイラが発見されています。しかも、ヴィクトリア朝時代には何トンものネコのミイラがイギリスに運ばれ、粉砕されて肥料として使われました」(ドハティ博士)

     儀式的な殺害のために何百万匹ものネコが飼育される過程で、扱いやすい性格特性のネコが徐々に選抜され、愛玩動物としての飼いネコが誕生したということだ。

    バテスト像 画像は「Wikimedia Commons」より

    イヌに比べて浅い人間とネコの関係

     ドハティ博士が共著者となり今年3月に同じく「bioRxiv」で発表されたゲノム研究では、古代および現代のネコのゲノム87個を解析した結果、イエネコが新石器時代の農民とともにヨーロッパに渡来したという証拠は見つからなかった。むしろ、ネコは過去2000年以内に、おそらく北アフリカからやって来たと考えられるということだ。

    「これは、人間とネコの親密さは、(イヌの場合のように)両者の関係の長さによるものではないことを示していると思います」(ドハティ博士)

    Sandra KapellaによるPixabayからの画像

     どちらの研究も、移入された飼いネコとヨーロッパ在来のヤマネコの間で混血と競争があったことが示されている。西暦1千年紀からヤマネコの個体数が減少し始めており、これはエサとなる資源の重複、疾病、そして交雑に関連している可能性があるという。

     また、この2つの研究は、飼いネコの到着時期と拡散経路において相違があるものの、ヨーロッパにおけるネコの家畜化と拡散は、これまで考えられていたよりも最近のことであり、より文化的な状況下で起こったという重要な結論を導き出している。

     これらの研究を総合すると、人類にとって最も身近なペットの一つであるネコに対する理解は大きく変わることになる。農村でネズミ駆除に活用されていたというよりも、ネコは人間の文化的慣習、交易ネットワーク、そして宗教的崇敬といった需要に押されて、北アフリカから複数回の波状的流入でヨーロッパに渡ってきたと考えられる。

     数万年前の旧石器時代にまでさかのぼると言われている人間とイヌの長い関係の一方、人間とネコとの関係はせいぜいこの二、三千年ほどであるというのは意外にも思える。ネコがイヌほどには人間に懐かなく、時に勝手気ままであるのは、付き合いはじめてからの歳月が説明してくれるのかもしれない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「The History Kids」より

    【参考】
    https://www.sciencefocus.com/news/creepy-cat-domestication-sacrifice
    https://phys.org/news/2025-04-complex-story-domestic-cats-tunisia.html

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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