<体験談>やがて事故死することを彼は事前に察知していた!?
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◆富山県/中山香織
数年前に知人から聞いた話です。
地方のとあるところに、こじんまりとした居酒屋があります。
ある土曜日の夜のこと、20代半ばくらいの男性が、その居酒屋にひとりで来店しました。あまりお酒は飲まず、一品料理をいくつか注文したそうです。
しばらくしたのち、
「初めて来たけれど、この店の料理はとてもおいしい」
といって、嬉しそうに微笑んで帰っていったそうです。
その日以来、毎週土曜日の夜になると、この男性が居酒屋に来店するようになりました。来るときはいつもひとりです。
常連になってからも変わらず無口な人で、
「この店の料理はとてもおいしい」
という以外、言葉を口にすることはありませんでした。
余計な詮索をするのも野暮なので、お店の人もこの男性に言葉はかけなかったといいます。
男性が居酒屋に通いだして半年くらいたったころのことでしょうか。いつものように、
「この店の料理はとてもおいしい」
といって、支払いをすませた後のことです。めずらしく、
「おばちゃん」
と、男性が経営者の女性に話しかけました。
「おばちゃん、来週の土曜日、もしも僕がこの店に来なかったら、もう僕のことは死んだものと思ってください」
こんな妙なことをいいだしたというのです。
いつも無口なばかりか冗談などいっさい口にしたことのない男性の言葉に、経営者の女性が驚いたことはいうまでもありません。
しかし、そんなことは微塵も見せずに、
「またいつでもいらしてください。お待ちしています。どうぞお気をつけてお帰りください」
といい、店の外まで男性を見送ったそうです。
その後、この男性が居酒屋に姿を見せることはありませんでした。
経営者の女性は、
“転勤で遠くへ行ったのかもしれない。もしくは病気を患ってしまったのだろうか”
と、当然ながら気になったといいます。しかし男性の名前すら知らない間柄です。
“またいつか元気な姿を見せてくれたらいいのだけれど”
と、願うしかありません。
それから数か月たったある日のことです。
居酒屋の経営者の女性は、ふとしたきっかけで、あの20代半ばくらいの男性がすでにこの世に存在しないことを知りました。
じつは、
「おばちゃん、来週の土曜日、もしも僕がこの店に来なかったら、もう僕のことは死んだものと思ってください」
と、話した数日後、男性は事故で亡くなったそうです。
その話を耳にし、居酒屋の女性経営者が驚いたことはいうまでもありません。
居酒屋に最後に姿を見せた日の帰り際、なぜあの男性はあのようなセリフを口にしたのでしょう? 自分が事故死することを予感していたのでしょうか?
謎を解明する手立ては、今となっては何ひとつありません。
(本投稿は月刊『ムー』2025年7月号より転載したものです)
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