UMAをネイチャー路線で描く─前代未聞の天然ビッグフット映画「サスカッチ・サンセット」のリアル

文=杉浦みな子

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    衝撃的なまでにビッグフットを真摯に描く映画「サスカッチ・サンセット」が日本上陸! ムー民の心に刺さるネイチャーポップムービーを応援しよう。

    UMA映画の“夜明け”にして“黄昏” 

     サスカッチ、またの名をビッグフット。この毛むくじゃらの獣人型UMAは、1967年にカリフォルニアの山中を歩く姿が8mmフィルム(通称、パターソン・ギムリン・フィルム)に捉えられて以来、都市伝説やオカルト番組の常連として愛されている。 

     そんな伝説的存在を、茶化さず、崇拝もせず、ただ生き物として描くという、前代未聞のビッグフット映画が誕生した。タイトルは「サスカッチ・サンセット(原題:Sasquatch Sunset)」。本日、2025年5月23日(金)より、新宿ピカデリーほか全国で順次ロードショーだ。 

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

     本作の何がすごいって、一般的には荒唐無稽な存在であるビッグフットたちの“生態”を、ドキュメンタリー的手法で90分にわたりじっくり描くという、まさかのネイチャー路線。B級ホラー映画の怪物として描かれてきた従来の姿とは一線を画している。

     スクリーンには、食べて、排泄して、交尾して、喧嘩して、出産して、死ぬ……そんな当たり前の営みを繰り返すビッグフットたちの姿があるだけ。しかし、そんなある種“珍妙”な本作には、どこか切実さも漂い、観る者に「笑っていいのか、泣いていいのか」を問うてくる。 

    ネタではないーービッグフットを本気で描く90分 

     本作を監督したのは、映画「Kid-Thing(原題)」などで知られるゼルナー兄弟。幼少期に例の8mm映像(パターソン・ギムリン・フィルム)を観て以降、ビッグフットに魅了されてきたという彼らが制作した本作は、何というか、ビッグフットが実在すると信じるムー民の脳内イメージをそのまま映像化したような……この映画、我々には一種の儀式に近い映像体験をもたらす。

     ちなみに、実は「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」を監督したあのアリ・アスターが製作総指揮として名を連ねているのだが、視聴後にはそんなことは忘れている。 

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

     本編には、説明ナレーションもテロップも人語のセリフも基本的にない。ビッグフットたちが生きる姿と唸り声、自然音、そして美しい劇伴だけが森の時間を紡いでいく。

      途中、ビッグフットたちが人間の文明に触れるシーンはあるが、人間そのものは全く出てこない。そうして延々90分、毛むくじゃらたちが森で1年かけて生きている姿を見せつけられる。 

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

     ちなみにジェシー・アイゼンバーグやライリー・キーオなどの俳優陣がビッグフットたちを演じているが、言われなければ絶対にわからない。毛皮の肉体をまとい、獣の呼吸で動くその姿に人間性はほぼなく、とにかく最初から最後までビッグフットに真摯すぎる。そう、それこそが本作の魅力だ。 

     一般的には伝説上の存在になっているビッグフットを、“ひとつの生き物”としてフラットな目線で描くスタンス。オカルトファンがUMAに対して抱く「きっと世界のどこかでひっそり暮らしているんだよね」という思いと絶妙にシンクロする距離感である。 

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

    “Sunset”が意味するものとは

     もうひとつ見逃せないのが、タイトルの“Sunset=夕暮れ・黄昏”という語から漂う切なさだ。ネタバレになるので詳しい記述は省くが、本作はビッグフットたちの四季を描く構成になっており、終盤には確かに“日が沈む”ような感情を観る者にもたらす。文明の気配が忍び寄る森の中で、彼らが歩みを止める瞬間……。ぜひラストまで見届けてほしい。 

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

     なお、オカルトファンには刺さること間違いなしの本作だが、ビッグフットの基礎知識なしで何となく気になって観たような人は、視聴後に混乱するのではないか……? と心配になったのも事実だ。作品が持つ要素的に、「猿の惑星」や「2001年宇宙の旅」あたりと並べて語られることもありそうだし。 

     そこで、いちムー民としては「いや、大丈夫、ビッグフット映画なのでコレで良いんです」と堂々訴えたい。ビッグフットへの熱い思い抱く我々が、今最も応援していくべき映画と言えよう。

    ©︎2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved
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    「サスカッチ・サンセット」
    https://sasquatch-movie.com/
    5/23(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
    監督:デヴィッド・ゼルナー&ネイサン・ゼルナー
    出演:ジェシー・アイゼンバーグ(『ソーシャル・ネットワーク』)、ライリー・キーオ(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』)
    製作:アリ・アスター(『ミッドサマー』『ボーはおそれている』)
    音楽:The Octopus Project
    2024年/アメリカ/88分/シネスコ/5.1ch/原題: Sasquatch Sunset /提供:ニューセレクト/配給:アルバト
    ロス・フィルム
    Copyright 2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved
    公式HP:sasquatch-movie.com
    公式X :@sasquatchsunset

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。

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