「超音波による脳操作」研究の最前線! 医療に革命か、最悪の洗脳技術か?/久野友萬
超音波で脳を操る、そういうことが研究されている。超音波を使って、脳を遠隔操作するのだ。なんだかよくわからない話だが、超音波がどういうものか知れば、理解できる。
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科学が進むと昔の常識は非常識へと書き換えられるが、さすがにこれは……。空気に栄養があるというのだ。
「aeronutrients(=エア栄養素)」と名付けられた空気中の微量栄養素は、ミネラルや一部のビタミンなどがあり、人間は呼吸器を通じて血液中にこうした化学物質を取り込んでいるそうだ。
1960年代、洗濯工場の作業員の血中ヨード濃度が高いことがわかった。洗濯に使うヨードは空気中で微粒子となり、呼吸器から吸収されたらしいが、当時は経口なのか呼吸なのか、判別できなかった。
鼻の上部にある嗅上皮や鼻腔には毛細血管が張り巡らされているため、ヨードのような分子サイズが小さな物質なら、鼻から吸収される。例として適切ではないかもしれないが、コカインを鼻から吸うのは、鼻の血管にそのまま吸収されるからだ。
2011年に海藻から放出されるヨードガスが、海岸に近くで暮らす子供たちの血中ヨード濃度にどの程度影響するか調査が行われた。海藻が豊富に存在する沿岸部と海藻がほとんど存在しない沿岸部、内陸部の3か所で大気中のヨード濃度を測定すると、海藻の多い沿岸部のヨード濃度は内陸部の11倍も高く、実際に同じ地域の子どもたちの尿中ヨード濃度も、他の2地域に比べて2.7倍も多かった。ヨードは空気から摂取されるのだ。
マンガンや亜鉛も空気中に存在し、鼻から吸収されている。肺から吸収される栄養素はもっと分子サイズが大きなもので、ビタミンやタンパク質も吸収される。タンパク質が肺で吸収できるなら、文字通り、カスミを食って生きることができそうだが、量的に難しい。たぶん必要量を吸い込もうとすると鼻が詰まる。
現実的には薬品の投与に使えるらしい。タンパク質製剤は胃で溶かされてしまうために、投与は注射のみだったが、これを呼吸から投与しようという研究が進んでいるのだ。
調理中に油がエアロゾル(空気中の微粉末)化し、壁をベタベタさせることはご存じだろう。エアロゾル化した油は壁を汚すだけではなく、肺を通じて調理している人の血管にも吸収されるらしい。太る言い訳に「水を飲んでも太る」というが、実際は「息をしても太る」わけだ。
肺から吸収された栄養分は肝臓を経由せずにそのまま心臓に送られる。つまり肝臓で解毒されないのだ。だからエア栄養素を栄養補給や治療に使う場合、経口よりもはるかに量が少なくても有効な血中濃度を維持できる。
1970年代に悪性貧血の治療にビタミンB12のエアロゾルを使う実験が行われたことがある。24人の患者を対象にビタミン12のエアロゾルを吸入させ、効果を測定した。その結果、ビタミンB12のエアロゾルは経口補給より54倍も効果的で、筋肉注射とほぼ同じ効果があることがわかった。
その後もビタミンB12のエアロゾル吸入は何度か行われ、ビタミンB12欠乏症の成人103人にネプライザー(鼻噴霧器)で投与したところ、2週間以内に血清レベルが正常化したり、ビタミンB12欠乏症の高齢者60人に鼻腔内スプレーでビタミンB12を投与したところ、こちらも血清レベルが正常化した。
しかし、エアロゾルを栄養補給として利用することは、ほとんど行われていない。経口が難しい患者に点滴以外の栄養補給方法として、今後の研究が待たれる。
新鮮な空気と日光が細菌性の病気に有効なことは、現在では常識となっている。自然の空気が体にいいことは経験的に知られ、結核などの療養所は高原や海岸沿いに建てられた。
こうした山間部や海辺の空気は、街中の空気に含まれる排ガスなどによる汚染が少ないため、健康にいいと考えられてきた。
さらに研究者たちは、新鮮な空気が健康に役立つのは汚染が少ないだけではなく、人体に有用な微生物が大量に含まれているからだと考えた。「エアロバイオーム=空中細菌叢」と名付けられたそうした細菌叢は、呼吸で人間の体内に入ると鼻腔や気道、肺に細菌叢を作り、場合によっては消化器の細菌叢にも影響する。
エアロバイオームから人間に入って来る細菌は、黄色ブドウ球菌のような腐敗菌や大腸菌、肺炎球菌などを有害な細菌の細胞への侵入を防ぎ、体の抵抗力を手助けする。
マウスでの実験だが、土壌細菌をエアロゾル化し、空中に散布した中でマウスを飼育したところ、腸内細菌叢が変化し、不安行動が減少したそうだ。土のある田舎暮らしは健康にいいというのは、都会より汚染物質が少ないというだけではなく、優秀なエアロバイオームの中で生活できるという意味でもある。
仙人のようにカスミを食って生きるわけにはいかないようだが、薬や栄養補助の新しい投与方法としてエアロゾルの利用はこれから進んでいくだろう。先日、インフルエンザにかかり、吸鼻薬を出してもらったら、1回分のあまりの量の少なさに驚いた。最初何も入っていないと思い、薬局の出し間違いと思ったほどだ。嗅上皮や肺から吸収された薬品は分解されずに効率的に行われるから、超微量でも十分なのだろう。実際、劇的に効いた。
これからの健康のキーワードには、空気も追加しなくてはいけないだろう。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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